身体が震えるという現象は、単に体調が悪い時に起こるだけでなく、心が大きな負担を感じた時にも現れる自然な反応です。これは、精神的なショックやストレスに対する身体の防御反応とも言えます。たとえば、ひどい侮辱を受けたり、強い怒りや恐怖を感じた時、あるいは驚きのあまり心身が縮み上がるような体験をした時、私たちは無意識にブルブルと震えることがあります。この震えは、心身が限界を感じた時に現れる自然な回復プロセスの一部なのです。
トラウマ治療の場では、この身体の反応に注目し、震えやその他の身体的な反応を抑え込むのではなく、それをしっかりと表に出すことが重要視されます。身体が震えることで、緊張が解放され、心身が自然な回復プロセスをたどるための準備が整うのです。震えを恐れるのではなく、むしろその反応を受け入れ、心身が自ら癒しのプロセスを進めていくことをサポートすることが大切です。
トラウマ治療では、自分を追い詰めて固まっていくような感覚に注意を向け、凍りついたトラウマの中核に向き合います。この凍りつきの状態では、痛みや痺れ、息苦しさ、吐き気などの不快な感覚が湧き上がることがよくあります。しかし、これらの感覚に対して抵抗するのではなく、それを受け入れ、身体に閉じ込められていたエネルギーを解放するイメージを持つことが大切です。そのエネルギーは、震えとして身体に現れ、徐々に解放されていきます。
特に複雑なトラウマを抱える人は、普段から自分を守るための防御姿勢を取り続けているため、心身が「凍りつき」や「死んだふり」の状態に固定されてしまいがちです。この状態では、身体の中を流れるはずのエネルギーが滞り、自然な回復プロセスが妨げられます。また、身体が震えることを恥ずかしいと感じ、人前でそれを抑え込もうとすることがありますが、こうした行動もまた、回復の妨げとなります。
トラウマを抱える人が経験する震えや揺れ、熱、寒気、鳥肌、ピリピリした痛み、電気が走るような感覚、くすぐったい感じなどは、身体に閉じ込められた大量のエネルギーが解放される際に起こる自然な反応です。この時、固まっていた筋肉が急に激しく動き出すことがあり、その動きを止めようとするのではなく、むしろその一連の反応に興味を持ち、探究することが重要です。これは、身体が自ら回復しようとするプロセスの一環だからです。
日常生活の中で、身体が震えるなどの反応が出る人は、エネルギーが放出され、回復が進んでいる可能性が高いといえます。この震えは、身体が内側に溜め込んだストレスや緊張を解放しているサインでもあります。エネルギーが放出された後には、安心感が広がり、心身ともにリラックスすることができます。
この回復プロセスを促進するためには、震えが起こった時にその反応を無理に抑えることなく、自由に感じ取り、その後は無理のない生活を心がけることが大切です。自分を安心させ、心と身体に優しい時間を持つことで、より深い回復へと繋がっていくのです。
凍りついたトラウマを解放するために最も効果的な方法は、恐怖に正面から向き合うことです。しかし、複雑なトラウマを抱える人にとっては、恐怖に向き合うこと自体が非常に困難であり、頭が混乱してしまったり、記憶が曖昧になってしまったりすることがあります。そのため、いきなり恐怖と向き合おうとするのではなく、まずは身体の感覚に意識を向け、リズムを取りながら楽しく進めていくことが有効です。
身体に目を向け始めると、最初に痛みや凝り、不快な感覚に気づくことが多いでしょう。これらの感覚がどのようなものか、どのように変化するのかに注意を向けながら、じっくりと観察します。不快な感覚に対して意識を向け、その感覚に耐えながら見守っていると、次第に痛みや不快感が和らぎ、最終的には消えていくことがあります。このように、身体の感覚に少しずつ慣れていくことで、内側にあるさらに深い感覚を探索することができるようになります。
特に、目や口、肩などの部位を軽く動かしながら、身体に振動を与えることで、表面に隠れていた怠さや違和感が浮かび上がってきます。痛みや不快感を追体験していくと、震えや揺れ、熱、くすぐったい感覚などが現れます。これらの感覚が大きくなっていくと、身体はガクガクと震え始め、熱を帯び、汗が出てくることがあります。このプロセスを通じて、身体に蓄積されたエネルギーが解放され、凍りついていたトラウマが少しずつ解きほぐされていきます。
このようにしてトラウマが解放されると、呼吸が楽になり、身体全体がリラックスする感覚を得ることができます。トラウマを解放する道は恐怖に直接立ち向かうだけでなく、身体の感覚と優しく向き合い、無理をせずに少しずつ進んでいくことが鍵です。
複雑なトラウマを抱えている人は、日常生活ではあたかも正常であるかのように振る舞うことが多いです。彼らは環境からのストレスに耐え、精神や人格が崩壊しないように、生体機能を微妙に調整しながら、自分が活動できる範囲を守り続けています。しかし、その裏では、心と体は絶え間ない苦痛に耐えており、災難が降りかかるたびに、その苦悩が再び燃え上がります。
トラウマに向き合い、恐怖を乗り越える準備ができていれば、身体がガクガクと震え、熱を感じるような解放反応が起こります。しかし、多くの場合、トラウマを持つ人は恐怖に圧倒されやすく、対処が難しくなります。そのため、安全な場所で、身体をリラックスさせながらトラウマ反応を引き出すことが重要です。トラウマのホットスポットは、内側でマグマのように熱を持ち、爆発しそうに感じられますが、その瞬間を耐え忍びながら身体を解放させていきます。
耐え忍ぶことで、身体に蓄積されていたエネルギーは、震えや汗、涙、鼻水として解放されます。最初は身体が震える感覚が怖く感じられるかもしれませんが、このエネルギーを解放することで、身体の力が徐々に抜け、顔はすっきりし、目は冴え、声も変わり、全体的に軽く、心地良い感覚が広がります。
トラウマを解消するためには、身体の感覚に集中し、安全な環境で、トラウマを再演させるプロセスが必要です。筋肉、脊髄、目、鼻、口、耳、顎、そして扁桃体に蓄積されたエネルギーを放出することで、身体は回復へと向かいます。このエネルギーを解放する方法には、恐怖に向き合う、不快な感覚を追体験する、あるいは身体の一部を動かしてエネルギーの流れを促すことが含まれます。また、心地良い音やリズム、香りを取り入れることで、震えや揺れ、熱が全身に広がり、癒しのプロセスが深まっていきます。
身体に蓄積された莫大なエネルギーを解放すると、感覚過敏から解放され、これまで怖かったものが徐々に怖くなくなっていきます。日常生活においても、身体に滞っていたエネルギーを解放し、神経の痛みを和らげることで、何も考えずリラックスできる時間が増え、気持ち良く過ごせるようになります。身体が軽く感じられ、日常のストレスが和らぐだけでなく、相手のネガティブな感情が直接的に影響することも少なくなり、自分の怒りに振り回されたり、そのことで自分を責めたりすることも減っていきます。
また、凍りついた状態が解け、神経の働きが正常化することで、心臓の機能が回復し、心拍や血圧が安定します。これにより、手足の筋肉もより自由に使えるようになり、姿勢が改善されます。日常生活では、物忘れが減少し、鬱や希死念慮といった感情が軽減され、頭痛や肩こりなどの身体的な不調も少なくなっていきます。
このように、身体のエネルギーを解放し、神経のバランスを取り戻すことは、心身の健康に大きな変化をもたらし、より充実した日常を送るための鍵となるのです。
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平