トップページ > トラウマ・PTSD研究 > DV加害者の支配する世界
第1節.
ここでは、ドメスティックバイオレンス(DV)の加害者と被害者の関係性について解説します。DV加害者は、常に被害者を見張り、圧力をかけ続けることで、被害者の自由を奪い、身動きが取れなくしていきます。被害者は加害者の「凍りついた世界」に押し込められ、そこから逃れることができず、共に生きざるを得ない状況を強いられるのです。
このような暴力や精神的な圧力をかけ続け、相手を支配しようとする加害者は、「凍りつきの番人」とも言えます。加害者は、被害者の生活を完全に支配し、感情や行動の自由を凍結させ、被害者が加害者から離れられない状態を作り出します。この支配の構造は、被害者に深刻な心理的・身体的影響を与え、脱出が困難な悪循環に陥らせます。
1. DV加害者の心の迷路と支配のメカニズム
DV加害者(凍りつきの番人)は、自己愛の病理やボーダーライン的な特徴を持ち、他者を縛り付けて支配し、生き地獄のような状況に引きずり込む存在です。彼らは表向きは普通に見えることが多いですが、内面は常に虚しさや空虚感に満ち、自分自身に向き合うことができません。心の奥底には嫉妬や怒り、無力感、劣等感、執着といった混沌とした感情が渦巻き、それが相手を逃がさない執拗な支配へとつながっています。
彼らは自分が傷つけられそうになると、激しい怒りを覚え、その痛みを何倍にもして相手に返すことで自分の苦しみを分からせようとします。心の中は、出口のない迷路のように混乱しており、その迷路から逃れられないまま他者を巻き込みます。親しい相手を見つけると、巧妙に自分の世界へ引き込み、相手を不利な立場に追い込んでいきます。そして、相手が身動きできなくなるまで、自己中心的なルールを押し付け続けるのです。
このような加害者の行動は、無意識的な不安や空虚感から生じており、相手を支配することで一時的な安心感を得ようとするものです。しかし、その結果、相手は自由を奪われ、加害者の世界に閉じ込められてしまいます。
2. DV加害者が抱える内面の葛藤と破壊的行動のサイクル
DVを行う加害者は、自己否定感や強い警戒心を抱え、世間体を気にしながら日々の生活や仕事で疲弊し、慢性的なストレスと緊張に苦しんでいます。何か問題が発生してストレスがかかると、体が縮まり、まるで何者かに押さえつけられているような感覚に陥り、常に重圧を感じています。このストレスに耐えきれず、身近で反論しづらい相手に八つ当たりをしてしまうことが多いのです。
加害者の体内には、闘争や逃走のエネルギーが膨大に滞っており、嫌な感情をため込んでは、それを持て余しています。抑圧され続けたエネルギーが解放されると、その反動で暴飲暴食、衝動買い、SEX依存、感情の爆発、攻撃行動、ギャンブル依存、薬物中毒といった突発的な行動に走ることがあります。しかし、感情を発散した後には、自分がまた過ちを犯してしまったことに気づき、自己嫌悪に陥ることがしばしばです。
このように、DV加害者の行動は、内面に抱えるストレスと緊張、そして抑圧された感情の解放が関係しており、根本には解決されない自己否定や葛藤が存在しています。その結果、加害者自身も苦しみを抱えながら、破壊的な行動を繰り返してしまうのです。
3. DV加害者の内面に潜む過去の傷と暴力の背景
DV加害者は、一般的に被害者に害を与える存在として捉えられますが、実際には、彼ら自身も過去に虐待や親のDVの目撃、いじめの被害者であることが少なくありません。こうした経験によって、加害者も深く傷つき、心身共に疲弊していることが多いのです。そのため、彼らは暴力を「抵抗」の手段として選ぶ場合があります。自分を守り、感じる痛みや恐怖に対抗するための手段として、暴力を振るうことが彼らにとって唯一の方法になっているのです。
DV加害者が暴力に走る背景には、彼らを傷つけてきた存在や過去のトラウマが大きく影響しています。彼ら自身が暴力にさらされ、無力感や恐怖を抱えた結果、その痛みを他者に向けてしまうのです。ある意味では、暴力を振るう「モンスター」を作り出したのは、加害者を長年にわたり傷つけてきた環境や人物が背景にあるのかもしれません。
加害者の暴力的な行動は、過去の傷つけられた経験に根ざしており、ただ加害者を非難するだけでは、その問題の根本にはたどり着けません。彼らの暴力は、傷つけられた者が弱者としての抵抗を表現する一形態でもあり、過去のトラウマが解決されずに現れた結果と言えるでしょう。
4. DV加害者が抱える心身のストレスと感覚の麻痺
DV加害者は、日常生活におけるストレスに対して身体が過敏に反応し、胸が締めつけられるような感覚や、体が重く感じられ、手足のしびれを経験します。さらに、頭、顎、首、肩、背中が硬直し、まるで体全体が凍りついたような状態に陥ります。このような緊張が続くと、神経の働きが交感神経と背側迷走神経の間を行き来し、体の感覚が次第に鈍くなります。痛み、寒さ、暑さといった基本的な感覚に対する反応が鈍くなり、さらには他者に対する共感性までも低下してしまいます。
このような身体的・精神的麻痺状態の中で、一人でいると自己の存在が不安定になり、自分自身を支えることが難しくなります。そのため、加害者は他者を支配し、相手を自分の思い通りに動かすことで、自分の存在を強化しようとします。他者をコントロールすることで、自分が存在しているという感覚を得ようとするため、支配的な行動がエスカレートしていくのです。
5. 身体の過敏反応と感情コントロールの難しさが引き起こす悪循環
身体の節々が痛みやすく、不快な刺激に敏感な人は、些細なことでも嫌な記憶が蘇ると、その記憶が心を襲い、じっとしていられなくなることがあります。人間関係で争いが生じると、身体は硬直し、感情が爆発しそうになり、攻撃的な行動や自暴自棄な行動を取ることも少なくありません。普段から安心できる場所がなく、職場や人間関係がうまくいかずに何度も仕事を辞めてしまい、社会の規則やシステムに適応することが難しくなるケースもあります。
さらに、自分の感情や欲求をうまくコントロールできないと、お金の管理もままならず、借金を重ねたり、最終的に自己破産に至ることもあります。このような悪循環は、身体の過敏反応や感情の不安定さと深く結びついており、日常生活や社会生活に大きな影響を与え続けます。
第2節.
凍りつきの番人(ドメスティックバイオレンスの加害者)は、表面的には笑顔を見せながらも、その裏には冷たい、不気味な笑みを浮かべ、いつ手のひらを返すか分からない恐怖を被害者に与えます。被害者はその表情に怯え、緊張で体が固まり、次に何かが起こるのではないかと敏感になり、身動きが取れなくなっていきます。加害者もかつては凍りついた世界で生きてきたかもしれませんが、その冷たい世界に被害者も巻き込まれ、凍りついた状態で支配されるのです。
支配下に置かれた被害者は、常に加害者に否定されるため、自分の意見を持つことが難しくなり、相手の「正解」を探して話すようになります。反発したい気持ちが芽生えても、自分自身の感情を押し殺し、怒りなどの感情から切り離されたように振る舞います。加害者の圧力に負けて会話を強いられても、発する言葉は棒読みになり、何を話していいか分からず、恐怖で言葉が出てこなくなります。いつ手が飛んでくるか分からないという恐怖に常に怯え、委縮しきってしまうのです。
加害者の理不尽な要求に従っていくうちに、被害者の言動には心が伴わなくなり、ただ要求に従うだけの状態に陥ります。この状況では、被害者は同じ言葉を繰り返すしかなく、加害者はその無力な反応に苛立ちを覚え、被害者は八方塞がりに追い込まれていきます。
1. 凍りつきの番人が抱える空虚と支配欲求
凍りつきの番人(DV加害者)は、被害者と共に冷たい孤立した世界に生きていますが、時折、欲望に駆られ、外の世界へ自由に出入りします。別のターゲットを探すなど、他者との接触を求めるものの、戻ってきたときにパートナーや被害者がいなければ、自分自身の空虚と向き合うことになり、その虚しさに耐えられなくなります。自分の心の中の空白を埋める術を知らないため、その空虚が恐ろしく、ひとりになることを極端に避けようとします。
凍りつきの番人には、パートナーや他者が常にそばにいてくれることを強く求める欲求があります。しかし、それは他者との健全なつながりではなく、自分の空虚を埋め合わせるための存在として、相手を内に閉じ込めてしまうのです。相手を自分の支配下に置くことで、自分の虚しさを見ないようにしているのです。こうして、パートナーは凍りついた世界に閉じ込められ、自由を失い、加害者の欲望を満たす道具として扱われるようになります。
2. 凍りつきの番人の怒りと被害者の軟禁状態
凍りつきの番人(DV加害者)が被害者を攻撃するとき、その姿はまるで人が変わったようになります。瞳孔が開き、目を見開いて鬼のような形相を見せ、感情が爆発する瞬間は恐怖そのものです。被害者は、加害者の突然の八つ当たりに理解が追いつかず、会話が食い違ったり些細なことが問題になると、加害者はさらに感情的になり、手がつけられないほどの罵倒を始めます。
被害者はその場で委縮し、頭が真っ白になり、何を言えばよいのかも分からなくなります。この罵倒や説教は時に長時間に及び、被害者はまるで精神的に軟禁されているかのような感覚に陥ります。逃げることもできず、ただ攻撃に耐え続けるしかない状況で、心身が凍りついていくのです。被害者にとっては、加害者の怒りの爆発がいつ起こるか分からない恐怖に常に晒されている状態であり、精神的な自由を奪われた日々が続いていきます。
3. 凍りつきの番人による支配と被害者の凍りついた世界
凍りつきの番人(DV加害者)は、調子の良いときに被害者に対して二つの矛盾したメッセージを与え、好意的な言葉で「こうしたらいい」と指示します。被害者はその言葉を信じ、希望を持って行動します。しかし、被害者が番人の支配から抜け出そうとすると、番人は突然機嫌が悪くなり、怒りを爆発させます。こうして、被害者は結局自由になることを許されず、言動の自由が奪われ、拘束された状態が続くのです。
このため、被害者は凍りついた世界から抜け出すことが困難になり、冷たい氷水の中で震え続けるような感覚に陥ります。自由を求めようとしても、手足は見えない力に掴まれ、頭は緊張で締め付けられるように痛み、過去の辛い思い出が足を引っ張ります。加害者の存在が常に身体を支配しているような感覚に囚われ、被害者の体は次第に冷たくなり、手足は痺れ、関節は痛みを伴うようになります。この状況下では、被害者は心身共に凍りつき、脱出の道が見えなくなってしまいます。
4. 凍りつきの番人による支配と被害者の空っぽの身体
被害者は、凍りつきの番人(DV加害者)の要求に従うしかなく、「右に行け」と言われれば右へ、「左に行け」と言われれば左へと、加害者の指示通りに動かされます。こうして、自分自身の意志が次第に失われ、心身が凍りついていくことで、自分の体の感覚さえ分からなくなり、やがて空っぽの身体になってしまいます。
支配する加害者と服従する被害者の関係性は、被害者の魂や主体性を抜き去り、ただの空っぽの容器にしてしまいます。加害者に操られるその身体は、感情や意思を持たず、命令に従うだけの存在になります。さらに、この空っぽの身体同士が互いに依存し合うことで関係性が強化され、離れることができなくなります。被害者は加害者の支配に依存し、加害者もまた被害者を支配することで自身の空虚感を埋めようとします。
この依存関係は、完全な負のスパイラルに陥り、お互いの空っぽな身体が強調されることで、関係はますます深くなり、逃れられなくなってしまいます。被害者は自分を取り戻すことができず、加害者の操り人形として生き続けることを余儀なくされるのです。
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平