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トラウマ治療と心理療法のアプローチ


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 第1節.

トラウマの記憶と向き合う—支援と回復への道のり


トラウマ記憶を思い出すことは非常につらく、多くの人がその苦しみから逃れたいと感じるのは自然なことです。しかし、トラウマに目を背け続けると、それは心と体に深い傷跡を残し、日常生活に長期的な支障をもたらすことがあります。トラウマを乗り越えるためには、信頼できる人々に自分の体験を話すことが重要です。親やパートナー、友人に話すことで、その出来事に対して距離を置けるようになり、胸の締めつけられるような苦しみや体の重さが和らいでいきます。

 

さらに、体をリラックスさせるために、深呼吸をしながら体を伸ばし、心地よさを感じる環境で過ごすことが効果的です。誰かのサポートを受けながら、安心感に包まれた生活を送ることで、心は自然と回復し、トラウマの影響は徐々に小さくなっていきます。このように、トラウマに向き合うことで、心と体の癒しを進めることができるのです。

 

1. 複合的トラウマの影響と回復へのアプローチ

 

しかし、子どもの頃から複合的なトラウマを抱えている場合、人に話すだけでは十分な回復が望めません。彼らの体は常に緊張しており、脳は危機感にとらわれ、どうしてもネガティブなことに注意が向いてしまいます。体にはトラウマの記憶が深く刻まれているため、ネガティブな感覚や感情が蘇ると、体は硬直し、全身が凍りついてしまいます。

 

トラウマの影響が強まると、外部からの刺激に対して神経が過敏になり、些細なことでも体が過剰に反応するようになります。トラウマが慢性化すると、体が異常な状態に陥り、免疫系、神経系、内分泌系の調整が不全となり、脳にも悪影響を及ぼし、日常生活での人間関係に支障をきたすことがあります。

 

このように、慢性的なトラウマの影響によって症状が多岐にわたるため、ただ話すだけでは回復には至りません。トラウマを抱える人は、無意識のうちに過緊張や凍りつき、さらには「死んだふり」の状態が続いており、神経が繊細に反応し、些細な刺激でも不安や動揺、怯えや痛みが生じます。

 

そのため、日常生活では、自分の意志に反する行動や強制的な思考をできるだけ避け、自分が前向きになれるような好きなことに取り組む時間を増やすことが大切です。そうすることで、生きがいを感じ、心と体の安定を取り戻すことができるでしょう。

 

2. トラウマを語ることの壁—孤立と理解の狭間で

 

トラウマを抱えた人が、その体験を誰かに語ろうとすると、予想以上の困難に直面することが多いです。最初のうちは親や友人が話を聞いてくれるかもしれませんが、時間が経つにつれて、一般的な人々にとってはトラウマ体験に同調し続けることが難しくなります。最悪の場合、「それは本当にあったことなの?」や「みんなそれくらいの辛い思いをしているよ」、「あなたにも問題があったんじゃないか」といった、無理解な言葉が投げかけられることもあります。

 

このような状況に陥ると、トラウマを抱えた人は、自分の気持ちを話すときに相手の顔色をうかがい、本当に言いたいことが言えなくなります。さらに、自分のことを理解してもらえないことへのイライラが募り、精神的な負担が増していきます。その結果、自分の感情を押し殺し、周囲に理解を求めることを諦めてしまうことが多いのです。

 

そして、被害に遭った苦しみや現在の症状について誰にも話せなくなり、それが悟られないよう必死に隠すようになります。その過程で、周りの人々との距離が広がり、次第に孤立感が深まります。孤立が進むと、日常会話にも興味が持てなくなり、世間一般の人々とのコミュニケーションが苦痛に感じられるようになるのです。

 

このように、トラウマを語ることが難しい状況は、被害者にさらなる孤立をもたらし、心の負担を一層重くします。理解されることの難しさが、心の傷を深める一因となっているのです。

 

3. 安全な関係と専門的サポートの重要性

 

トラウマを抱えた人が最初に目指すべきは、安全で安心できる関係を築くことです。自助グループや支援施設、SNSなどで、同じような背景を持つ人々と交流を始めるのは効果的な一歩です。同じ経験を持つ人々と話すことで、共感と理解を得やすく、孤独感が軽減されるでしょう。

 

しかし、もしトラウマ体験を誰にも相談できず、話せる相手が見つからない場合は、早い段階で信頼できるトラウマ専門のカウンセラーや医療機関に相談することをお勧めします。特に、子どもの頃から複合的なトラウマを抱えている場合は、専門医や治療施設、カウンセリングルームを訪れることが最善の選択肢となるでしょう。トラウマ専門のカウンセラーであれば、どんな内容の話でも態度を変えることなく、安心して話をできる環境を提供してくれます。彼らは、クライエントが自身の思いを自由に話せるように、配慮をもって接してくれるでしょう。

 

しかし、現実は厳しい側面もあります。トラウマやいじめ、犯罪、性暴力の被害者が、医療機関や学校、警察で十分な支援を受けられないことが多々あります。支援する側の対応が不十分だったり、限界があるため、被害者が二次被害を受け、さらに深い心の傷を負うケースも少なくありません。時には、実際の被害よりも、支援者から受けた二次被害の方が大きな痛みとなり、その結果、社会からの孤立が進むことがあります。

 第2節.

トラウマ治療—体と心を結びつけるアプローチの重要性


一般的なカウンセリングでは、自分の話を聞いてもらい、自己理解を深めることで、社会での生き方をより良くすることが目指されています。しかし、トラウマの影響で心の余裕を失っている状態では、自己理解が困難になることが多いです。トラウマを抱える人々が繰り返し症状や問題行動に悩まされるのは、単なる心理的・精神的な問題にとどまらず、体の中に刻まれたトラウマの影響や、脳内で実際に起こっている変化、情動を司る神経系の異常が大きな原因とされています。

 

薬物療法は、脳や体に働きかけ、睡眠の質を改善したり、不安や恐怖を和らげる効果があるため、日常生活のストレスや緊張を軽減する助けになります。また、皮膚や内臓の炎症を抑えたり、痛みを緩和する薬を使うことで、体調が格段に良くなり、心の回復が促進されることもあります。

 

しかし、薬物療法には限界があります。薬を一度使用すると、継続して服用しなければならない場合が多く、これにより外の世界との繋がりを深めたり、社会的な交流を楽しむことが難しくなることがあります。また、薬物療法は、体との友好関係を築いたり、自己を深く理解する感覚を育むものではないため、根本的な治療方法とは言い難い面があるのも事実です。

 

1. トラウマ治療のアプローチ—心理療法と身体への焦点

 

トラウマの治療法としては、恐怖や苦しみを共有する支持的な心理療法が一般的です。これに加え、否定的な認知を修正し、前向きな思考を促すことで体質を改善していく認知行動療法や、メンタライゼーションなどの技法も有効とされています。認知行動療法では、理性的かつ合理的な思考を重視しますが、マインドフルネスを組み合わせることで、身体的な気づきを深め、トラウマ治療にさらなる効果をもたらします。

 

特に、一過性・単発性のPTSDには暴露療法やEMDRが有効とされ、安全な環境でトラウマの記憶を再現し、その恐怖に慣れることで、過去の出来事を乗り越えることを目指します。しかし、子どもの頃から複合的なトラウマを負っている場合や、特定不能の解離性障害、解離性同一性障害、複雑性PTSDを抱えている方に対しては、暴露療法やEMDRは逆効果となることがあるため、注意が必要です。これらの治療法は、恐怖に直接向き合うことを求めますが、身体が凍りついて解離や麻痺反応を引き起こしてしまうため、トラウマの記憶を語るだけでは不十分であり、最終的には身体に焦点を当てた治療を併用することが不可欠です。

 

2. 複雑なトラウマに対する暴露療法のリスクと考慮すべき選択肢

 

暴露療法を行うことで、複雑性PTSDの方は過剰な覚醒状態から身体が凍りつき、深刻な解離状態に陥ることがあります。この結果、感覚、感情、思考、そして意欲が著しく低下し、日常生活が困難になることも少なくありません。特に、特定不能の解離性障害や解離性同一性障害を抱える方の場合、フラッシュバックの際に記憶や感覚が一時的に戻ることがありますが、これらは恐怖による無意識の働きによって再び消失し、元の深刻な解離状態に戻ることが多いです。これにより、心身のバランスが崩れ、症状がさらに悪化するリスクが高まります。

 

暴露療法やEMDRは、日常生活の中で大きなストレスを感じなくなり、頭と身体の繋がりがしっかりと確立され、本来の自己を取り戻し、未来を肯定的に捉えられるようになった段階で初めて行うべき治療法です。現実世界の人々との十分な関わりが持てるようになることが、これらの治療法の前提条件となります。

 

一方で、トラウマが非常に根深く複雑に絡み合い、耐え難い痛みや恐怖が強くて動けなくなる場合、無理にトラウマと向き合うよりも、身体の中に凍りついたままにして生活を続けるという選択肢も考慮するべきです。すべてのトラウマに対して積極的に立ち向かうことが必ずしも最善ではなく、状況に応じて慎重なアプローチが求められるのです。

 

3. トラウマ治療における身体的アプローチの重要性

 

従来の対話を中心とした心理療法では、心に深く入り込むことができず、体の反応もほとんど引き出せないことが多くあります。しかし、体に働きかけるという新たな視点を取り入れることで、心と体の両方が強く反応し、徐々にトラウマを負う前の健全な状態へと戻っていくことが可能になります。このアプローチを通じて、日常生活の中で自己調整スキルを磨き、自然に回復する力を育むことができます。

 

ただし、治療を進める上での注意点もあります。特に性暴力被害者の場合、体に注意を向けると、その時のトラウマ的な光景や不快な感覚がフラッシュバックとして蘇ることがあります。治療中には、このフラッシュバックに適切に対処することが必要です。しかし、体に意識を向ける習慣を続けることで、時には日常生活の中で一時的に体調が悪化することもあるため、治療に臨むには過去のトラウマと向き合う覚悟や、それに耐える強い意志が求められます。

 

4. 心と体を結ぶ新しいトラウマ治療アプローチ

 

従来の対話を中心とした心理療法では、心の深層にまで到達することが難しく、体の反応も乏しいことがよくあります。しかし、体に働きかける新しいアプローチを取り入れることで、心と体が一体となり、強い反応を引き出すことができます。このプロセスを通じて、体がトラウマを負う前の健全な状態へと戻り、日常生活の中で自己調整スキルを磨き、自然に回復する力を育てることが可能になります。

 

ただし、治療には注意が必要です。特に性暴力被害者の場合、体に意識を向けると、過去のトラウマ的な光景や不快な感覚がフラッシュバックとして再現されることがあります。このような場合、治療中にフラッシュバックに適切に対処することが求められます。しかし、体に注意を向ける習慣を続けることで、一時的に日常生活で体調が悪化することもあります。したがって、治療を進めるには、過去のトラウマと向き合う覚悟や、それに耐える強い意志が必要です。

 

5. ソマティックエクスペリエンスによる心身の再生

 

ソマティックエクスペリエンスなどのボディセラピーでは、安心・安全感をイメージする最善の状況と、不快な感覚を再現する最悪の状況を交互に行き来しながら、体の生理的反応を観察して、身体と調和を図ることを目指します。このアプローチの重要な部分は、絶望的な姿勢を取って、冷え切った世界の中に入り込み、その中で耐え忍ぶ力を養うことにあります。最悪の状態に留まることで、体内から生き残るための攻撃性や、息を吹き返すときの輝くエネルギーが引き出され、手足が不随意に動くこともあります。

 

このエネルギーを味方に付けると、全身が燃えるように熱くなり、意識が飛ぶ寸前で耐え続けることができるようになります。そして、体が震え始め、トラウマによって凍りついていた部分が解き放たれ、全身が温かく、軽やかになり、体の内側から深い安心感を得ることができます。このプロセスを経て、トラウマによる「生きるか死ぬか」のモードから、安心できるモードへと切り替わると、視界が鮮明になり、世界の見え方が一変し、前向きに人生を歩む力を取り戻すことができるようになるのです。

 

6. トラウマ治療の鍵: 感情表現と身体ケアの重要性

 

トラウマ治療において、悲しみや怒りといった感情を表現するカタルシスと、心(意識)を使って身体の状態や痛み、不快感を見つめるアプローチの両方が必要です。私の経験からも、この二つを組み合わせることが効果的であると感じています。治療は時間と集中力を要するため、クライエントさんには忍耐力とモチベーション、そしてトラウマへの理解が求められます。これらが揃っていれば、治療はスムーズに進みます。

 

また、日常生活の中で、自分の身体が凍りついたり、不動状態に陥ったりする流れに気づき、その後の覚醒反応の一連の流れを恐れずに受け入れることができれば、トラウマの恐怖から解放されるでしょう。さらに、瞑想やヨガ、マインドフルネス、アロマオイル、音楽、映画、運動など、自分自身をケアする習慣を身につけることで、身体の中に滞っていたエネルギーが循環し始め、より良い人生を送れるようになります。自分の身体と心に対する理解とケアが、トラウマからの回復において非常に重要な要素となります。

 第3節.

当相談室におけるトラウマ治療の新たな視点


当カウンセリングルームでは、セラピストがあなたの心の声に耳を傾け、これまで誰にも打ち明けられなかった痛みや恐怖を共有し、解放へと導きます。私たちは、あなたが自分自身をないがしろにしてきた過去から自由になる手助けをします。まるで花や木が水と光を受けて成長するように、トラウマを負った方々がこの世界と再びつながり、生き生きと日々を過ごせるようにサポートします。

 

私たちの目標は、あなたが現在をしっかりと生き、過去の傷に縛られずに自分の人生を自信を持って歩んでいけるようにすることです。あなたが心の痛みから解放され、真の意味で自分らしい人生を歩むためのパートナーとして、寄り添い続けます。

 

1. 心理学を超えた包括的アプローチ

 

トラウマは、心理学的な問題だけでは説明しきれない複雑な側面を持っています。そのため、トラウマ治療には心と体の両方にアプローチすることが求められます。当カウンセリングでは、ただ言葉を交わすだけではなく、今この瞬間に実感を伴わせることで、より深い効果を引き出すことを目指しています。

 

具体的には、過剰な警戒心や防衛的な態度、体の硬直や凍りつき、慢性的なトラウマによる麻痺症状、情動の過剰な覚醒などに焦点を当て、これらを和らげるための様々なアプローチを取り入れています。マインドフルネス瞑想や呼吸法、ソマティックエクスペリエンスといった身体志向のアプローチ、自律訓練法、漸進的筋弛緩法、イメージ療法、ゲシュタルト療法など、多岐にわたる手法を組み合わせ、心と体を包括的に癒していくことを目指しています。これにより、クライエントが安心感を取り戻し、より充実した人生を歩むためのサポートを行っています。

 

2. 安全なイメージと身体感覚を通じた癒しのステップ

 

まずは、リラックスして目を閉じ、心に良いイメージを描くことから始めます。この過程で、人間の最も洗練されたシステムに働きかけ、頭がスッキリし、様々なことが自然と思い浮かんでくるようになります。浮かび上がった記憶や感情をセラピストと共有し、安心できるイメージを心にしっかりと根付かせ、身体の中で安全な感覚を見つけていきます。

 

次に、安心感と凍りついたトラウマの間を、振り子のように行き来することを試みます。耐え難い痛みに徐々に近づくと、身体が縮こまり、凍りついた情動に触れることができるようになります。その際、凍りついた瞬間の情景を思い起こし、当時の姿勢を再現しながら、感覚を十分に実感します。これにより、身体は一時的に動けなくなるかもしれませんが、その状況から最適な方法で抜け出すと、全身が広がり、温かくリラックスした状態へと変わっていきます。

 

トラウマが解放されると、身体の中に蓄積された緊張が解け、姿勢が良くなり、身体的な症状も改善されます。全身が拡がり、自然治癒力が活性化することで、過覚醒や過緊張、疲労感が和らぎ、薬に頼らずに眠れるようになり、困難な状況に直面しても、それが長引くことなく乗り越えられるようになります。

 

3.  否定的な人生物語を肯定的に書き換える

 

カウンセリングでは、まず安心できる環境を整え、クライアントに良い体験をしてもらうことを重視します。このプロセスでは、クライエントが持つ否定的な人生の物語を肯定的に書き換え、心身の改善を目指します。

 

セラピストとの対話を通じて浮かび上がる感情や心の動きを丁寧に見つめ、過去のトラウマからくる不安や恐怖に対処します。これにより、クライエントは「再び被害を受けるわけではない」と理解し、頭の中を整理して、過去と現在を区別できるようになっていきます。

 

4. カウンセリングと課外活動の統合アプローチ

 

さらに、希望があれば課外活動を取り入れることで、体に閉じ込められたトラウマに焦点を当て、未解決の行動パターンに取り組む支援が有効です。実際の体験を通じて、未完了の感情や行動に向き合うことができるよう、クライエントをサポートします。

 

個人カウンセリングと課外活動を並行して行うことで、内に秘めた力が再び活性化し、症状が徐々に軽減され、より自由な生活を取り戻せるようになります。その結果、防衛的な態度が和らぎ、周囲への接し方が穏やかになり、自分自身にも優しくなれることに気づくでしょう。

 

5. トラウマからの解放と本来の自分を取り戻すためには

 

トラウマの支配から自由になり、本来の自分、つまり身体や時間感覚、情動、思考を取り戻すための支援を行います。目指すべきは、外の世界で再び能動的に喜びや快感を追求できるような自己の感覚を確立することです。カウンセリングは人工的な環境で行われるため、トラウマ治療のすべてを完結させるには限界があります。そこで、実際の場面や自然溢れる場所で喜びや安心、痛み、硬直、凍りつき、過覚醒といった防衛反応を感じながら、支援者の適切なサポートのもと、外の世界でマインドフルな状態を保つことが心的外傷からの回復に最も効果的です。

 

この方法では、安心できる自分を作り上げるために、自分自身に愛情を注ぎます。気持ちがワクワクするような活動や楽しい出来事を取り入れることで、新しい流れが生まれ、心が体に戻り、自分が自分であるという感覚が養われます。最終的には、社会の中で仲間を作り、良い経験を身体や記憶に刻みながら行動していくことが重要です。ただし、快感を追い求めることに取り憑かれたり、支援者に対する過度な依存を防ぐための配慮も必要です。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

更新:2020-05-25

論考 井上陽平