トップページ > トラウマ・PTSD研究 > 凍りつくトラウマ
第1節.
カウンセリングに訪れる方々は、統合失調症や双極性障害、ADHD、自閉スペクトラム症、発達障害、うつ病、境界性人格障害、PTSD、解離性障害、解離性同一性障害、性同一性障害など、多岐にわたる精神的・身体的な問題を抱えています。また、慢性疼痛や慢性疲労、犯罪被害や性暴力被害、ドメスティックバイオレンス、モラルハラスメントといった経験を持つ方も多く来られます。
これらの方々のうち、7割以上(女性では8割)が、その背景にトラウマの影響を抱えています。トラウマの凍りつき反応や慢性的な不動状態、虚脱感を体験しており、それが彼らの症状や行動に深く影響しています。これらのトラウマ反応が心と身体にどのように作用しているかを理解することが、カウンセリングの重要な鍵となります。
1. トラウマがもたらす身体と心の凍りつき反応
トラウマの衝撃を受けると、人は瞬時に覚醒し、神経が鋭敏化します。この時、筋肉は極限まで緊張し、繰り返し縮んだり引き伸ばされたりします。交感神経が過剰に働き、身体は戦うか逃げるかの反応を起こそうとしますが、もしこの反応が阻害されると、筋肉は固まり、動けなくなります。これが、トラウマの核心にある「凍りつき」状態です。
トラウマを経験した後も、繰り返し脅かされると筋肉はさらにこわばり、緊張状態が慢性化します。無意識下で持続するこの過緊張と凍りつきにより、脳は絶えず危険信号を受け取り続けます。これにより、交感神経と背側迷走神経が過剰に反応し、解離や鬱、パニック、過覚醒、フラッシュバックなどの症状が現れます。身体的には、麻痺、睡眠障害、体内の炎症、喘息、頭痛、腹痛、肩こりなどの多岐にわたる症状が引き起こされます。
これらの症状は、トラウマによる生物学的メカニズムと神経の原始的な反応が引き金となっており、精神疾患や問題行動の背後に存在する重要な要因として注目されるべきです。
2. 凍りつく身体と心:トラウマがもたらす長期的影響
恐怖やショックを感じたときに、瞬時に凍りつく反応を示す人は、幼少期に外傷体験をしていることが多く、重度のトラウマや発達障害、うつ症状、解離症状、離人症状、強迫症状、摂食障害などを抱えている可能性があります。こうした人々は、些細な出来事でも凍りつきやすく、緊張が高まると首や肩がすぐに固まり、指先が冷たくなり、筋肉が収縮して震え始めます。
嫌な予感や不快な状況に対して、冷や汗が出て落ち着かなくなり、すぐに動き出したくなる傾向があります。恐怖を感じると、頭の中で「どうしよう」と考え込み、足がすくんだり、息を止めたり、背筋が凍りつく感覚を味わいます。他者の怒りの表情や心ない言葉でショックを受けると、身体が固まってしまい、時には眠気を感じたり、予想外の出来事で体に痛みが走ることもあります。
長年にわたり、常に凍りついた状態で生きていると、次第に体の感覚や感情が麻痺し、自分自身を見失うことがあります。身体がガチガチに凍りつくことで、気管支は狭まり、呼吸は浅くなり、心拍数が低下し、血液の循環が悪化して冷え性が進行します。これが続くと、体が「死んだふり」のような状態に陥ります。
さらに、関節の変形による痛み、強い眠気、睡眠障害、頭痛、腹痛、喉や胸の圧迫感など、さまざまな身体的な問題が発生します。体が怠く重くなり、次第に動けなくなっていく中で、免疫機能や内分泌系にも悪影響が及び、心身の多くの症状に悩まされるようになります。このような状態にある人々は、トラウマがもたらす長期的な影響に翻弄され、日常生活に深刻な支障をきたすことがあります。
第2節.
「凍りつき症候群」とは、災害救援の専門家が指摘する、トラウマに対する一般的な反応です。人は虐待、自然災害、事故などの予期せぬ衝撃に直面すると、強烈な恐怖に襲われ、切迫した状況に陥ります。その際、逃げることができず、足がすくんで固まり、何もできないままその場に立ち尽くしてしまうことがあります。この瞬間、絶望感が心を支配し、身体や思考が硬直し、頭の中が真っ白になるのです。身体は凍りついたように動かなくなり、自分の意思でコントロールできなくなります。
災害時の行動についての統計では、15%の人がパニックを起こし、同じく15%の人が冷静に適切な判断を下す一方で、70%もの人が身体が凍りついて動けなくなるとされています。私自身、阪神大震災を経験した際、震度7の激しい揺れの中で動けなかったのは、恐怖で体が凍りついていたのではないかと、今では思います。
日本は自然災害が頻繁に発生する地域であり、多くの日本人が、日常生活のストレスや慢性的な緊張状態の中で生きている可能性があります。このような凍りつき反応は、災害時だけでなく、私たちの日常生活にも深刻な影響を与えているのです。
第3節.
命の危険に直面したとき、人間の防衛パターンは多岐にわたりますが、主に闘争・逃走、凍りつき、そして死んだふりの3つの反応が見られます。表面的には闘争しているように見える場合でも、実際には交感神経系に支配されているだけで、本来の自分は内側で凍りついていることがあります。この凍りつき反応は、深刻な恐怖によって引き起こされ、離人化や意識の喪失を伴うことがあります。
人が凍りついてしまうと、身体の感覚が徐々に麻痺し、手足を動かそうとしても全く反応しなくなります。この状態では、思考が停止し、何も考えられないまま動けなくなります。現実感が次第に薄れ、心と体のつながりが断たれると、まるで別人格が現れるかのように感じることもあります。これは、脳が極度のストレスに対処しようとする防衛メカニズムの一環であり、命を守るために生じる一時的な自己防衛手段です。
1. 恐怖に直面したときの身体と心の反応
凍りつく防衛反応には、様々な形があります。たとえば、誰かに包丁を向けられた瞬間、多くの人は息が詰まり、体が凍りついて全く動けなくなるかもしれません。恐怖が全身を支配し、逃げることも抵抗することもできなくなってしまうのです。また、家族間で暴力が行われている場面を目撃した際にも、恐怖に圧倒され、体が硬直して動かなくなり、何も言葉が出せなくなることがあります。恐ろしい状況に対して、ただ見ているしかない自分に無力感を感じるでしょう。
さらに、レイプのような極限の恐怖体験では、体が完全に凍りつき、自分の身体から切り離されたように感じることがあります。まるで天井から自分自身を見下ろしているかのように感じ、声を出すことができず、意識を失ってしまうかもしれません。この凍りつき反応により、身体はまったく動かなくなり、行動する力を失ってしまうのです。その結果、感情が麻痺し、まるでその出来事が自分に起こったのではないかのように感じることもあります。
こうした反応は、極度の恐怖に対する人間の自然な防衛メカニズムであり、命を守るための緊急対応です。しかし、この凍りつき状態が心身に与える影響は非常に深刻であり、その後の回復には時間と適切なケアが必要です。
第4節.
凍りつくトラウマとは、予期せぬ瞬間に襲いかかる恐怖や戦慄のショックにより、体が極限まで硬直し、内部に膨大なエネルギーが閉じ込められてしまう状態です。この凍りつき反応は、心身に深い影響を与えます。
トラウマを受けた瞬間、アクシデント的なショックが胸を突き抜け、足がギュッと縮こまり、歯を食いしばり、刺されたかのような激しい痛みが全身を駆け巡ります。この痛みの衝撃で、頭から血の気が引き、心臓、首、肩、腕、指先、足、顔の筋肉が勝手に硬直していきます。視野が狭まり、全身が縮こまって息苦しさを感じ、手足の末端から冷たくなっていく感覚が広がります。膝の上まで冷たさが達すると、その部位に血液が流れなくなり、肌の表面に霜が張ったようになり、体がガクガクと震え、完全に凍りついた状態に陥ります。
このフリーズ状態では、体が重く固まってしまい、物事を考える余裕がなくなり、どうすればよいのか判断できなくなります。最悪の場合、気を失うこともあるでしょう。また、目が乾燥し、焦点が合わず、目の前の一点をじっと見つめることしかできなくなります。外から見ると、凍りついた人は無表情で無反応に見えます。周囲の声が聞こえていても、自分から話すことはできず、動くこともままなりません。
このような凍りつきは、外部からは一見するとただの無反応に見えるかもしれませんが、実際には身体の中で強烈な痛みや恐怖が渦巻いています。この状態に陥った人々は、トラウマによって心身に深い傷を負い、それがその後の生活にも大きな影響を及ぼします。
1. 凍りつくトラウマの影響:痛みと向き合うことの困難さ
一度トラウマを経験すると、その影響は深く体に刻み込まれ、痛みとして残ります。トラウマを抱えた後でも、予期せぬ出来事や突然の変化、計画通りにいかない状況に直面すると、身体は再びその痛みに凍りついてしまいます。この凍りつくトラウマを持つ人は、環境の変化に対して非常に敏感になり、交感神経が過剰に反応しやすくなります。その結果、感覚が鋭敏になり、周囲を常に警戒し、人から攻撃されるのではないかという不安に苛まれます。そして、そうした攻撃を自分では防ぎきれないと感じてしまいます。
このような凍りついた状態からショックに曝されると、息が詰まるような感覚に襲われ、身体は防御のために顔を下げ、肩を内に入れ、筋肉を固めて身を縮こませてしまいます。その結果、外界との接触を避け、家に引きこもる傾向が強まります。さらに、身体が過度に疲労すると、凍りつきがさらに強まり、放心状態に陥り、深い虚無感に沈んでしまうことがあります。
凍りつくトラウマを持つ人々は、心で何かを感じることや思うこと自体を避けるようになります。今この瞬間を感じたくないために、目の前のことに没頭したり、頭の中で考え続けたり、過食に走って気分を紛らわすこともあります。自分の心で何かを感じようとすると、耐えがたい苦痛や不快感が押し寄せ、その感情に向き合うことを避けようとする防衛反応が働くのです。
2. 凍りつきからの回復: 体と心の再生のプロセス
凍りつきからの回復は、まず痛みやショックによる麻痺状態にある自分の体に対して、意識を向けることから始まります。自分の体がまるで自分のものでないように感じる感覚に気づき、その感覚に対して恐れることなく、ゆっくりと向き合っていくことが重要です。凍りついた体に意識を集中させることで、次第にその麻痺感が薄れていきます。
時間と共に、体内ではさまざまな生理的変化が起こり始めます。まず、血流が改善され、冷たく固まっていた部分が温かさを取り戻し、全身が軽く感じられるようになります。このプロセスを通じて、体に新しい空気が流れ込み、心地よさが広がります。まるで生まれ変わったかのような感覚が得られ、凍りつきから解放された新しい体を手に入れたような感覚を味わうことができます。
解離症状が重く、常に凍りついた状態で生きている人が、全身に滞っていたエネルギーを解き放つように大粒の涙を流し、体がブルブルと震えることがあります。この震えは、固く閉ざされていた感覚や感情、さらには喜びまでもが一気に心の中から溢れ出す瞬間です。そして、その瞬間、まるで光の霧が心の中に広がり、現実の感覚が再び鮮明に戻ってくるように感じられます。
この全ての五感が震えるような神秘的な状態は、畏怖すべきでありながらも魅惑的で、まさにルドルフ・オットーが「聖なるもの」と表現したものです。凍りついていた体が震えることで、慢性的なトラウマ状態を一度リセットし、再び生きる力を取り戻すことができるのです。
日常生活の中でこの体の震えを上手に活用することで、トラウマの影響から少しずつ解放され、回復への道を歩むことができます。このプロセスを通じて、心身のバランスを取り戻し、再び安定した日常を過ごせるようになるのです。
第5節.
幼少期から様々なトラウマを抱えている人々は、毎晩のように地獄のような体験をしていることがあります。夜になると、闇の中に封じ込められていた記憶が蘇り、それに怯えて頭がぼんやりとし、身体は徐々に硬直していきます。胸の奥が締め付けられ、神経が痛み、全身が凍りつくように感じられます。
凍りついた後に絶望が襲ってくると、手や足を動かそうとしても力が入らず、身体は動けず、まるで地面に押し付けられるかのように感じます。特に重いトラウマを抱えている人は、恐怖が蘇るたびに原始的な神経反応が働き、頭が完全にフリーズしてしまいます。その結果、何も感じられず、何も考えられなくなり、感情は消え去り、身体は固まって動けなくなります。
このような夜の闘いは、トラウマが心と身体にどれほど深い影響を与えているかを物語っており、その苦痛は言葉で表現することが難しいほどです。
1. 対人緊張と凍りつき反応の身体的メカニズム
対人場面において、強い緊張が生じると、思考が停止して何も言い返せなくなることがあります。そして、人が後ろに立った瞬間、身体は無意識に反応し、凍りつくか、胸が痛み出すか、頭の働きが鈍くなるか、震えが生じます。これは、身体が凍りつく前後に、恐怖による過剰な覚醒とその後の覚醒の低下が交互に起こり、体が徐々に収縮していくためです。
この恐怖に伴う身体の反応では、体が震え、胸が痛み、心臓が激しく鼓動し、胃が不快感を覚えることがあります。痛みによって声はか細くなり、すすり泣きが止まらなくなることもあります。
2. 服従と凍りつき: 苦しさが蘇る瞬間
苦しさが蘇ると、理不尽な目に遭いながらも、無理やり服従させられ、言われるがままに行動してきた過去が思い出されます。本当はやりたくないと感じながらも、やらざるを得なかった経験が積み重なり、ついには限界に達して、心も身体も凍りつき、動けなくなってしまうのです。
人が切迫した状況に直面し、闘うことも逃げることもできず、問題を解決できないままでいると、次第に八方塞がりの状態に陥ります。このような状況では、身体は凍りつき、無力感に支配されて、完全な不動状態に入ってしまうのです。この凍りつきは、心と体が苦しみから逃れるための最後の防衛手段であり、逃げ場のない状況に直面したときに、無意識のうちに発動されます。
3. 麻痺と解離がもたらす現実感の喪失
凍りついた後、人は麻痺症状に見舞われ、現実を感じ取ることができず、まるで抜け殻のような状態に陥ります。この凍りつきは、単なる一時的な反応に留まらず、持続することもあります。凍りついたまま日々を過ごしていると、息苦しさや心拍数の低下が常態化し、夢と現実の境界が曖昧なまま生活することになります。
このような状態が続くと、学校や社会からの引きこもりが進行し、うつ症状や睡眠障害、解離・離人症、強迫症状などが悪化していきます。特に解離性障害や解離性同一性障害を持つ人々は、凍りついて心が閉ざされた後、人格が交代するか、機能が停止してしまいます。その結果、意識が朦朧とし、自分自身があちら側の世界へと飛んでいく感覚に囚われてしまうのです。
4. 凍りつきの連鎖: 過敏な神経と自己否定がもたらす悪循環
凍りついた後、人は麻痺症状に見舞われ、現実を感じ取ることができず、まるで抜け殻のような状態に陥ります。この凍りつきは、単なる一時的な反応に留まらず、持続することもあります。凍りついたまま日々を過ごしていると、息苦しさや心拍数の低下が常態化し、夢と現実の境界が曖昧なまま生活することになります。
このような状態が続くと、学校や社会からの引きこもりが進行し、うつ症状や睡眠障害、解離・離人症、強迫症状などが悪化していきます。特に解離性障害や解離性同一性障害を持つ人々は、凍りついて心が閉ざされた後、人格が交代するか、機能が停止してしまいます。その結果、意識が朦朧とし、自分自身があちら側の世界へと飛んでいく感覚に囚われてしまうのです。
このような凍りつきと麻痺の連鎖は、日常生活において深刻な影響を及ぼし、心と体が現実感を取り戻すためには長い時間と支援が必要です。
トラウマケア専門こころのえ相談室
更新:2020-06-21
論考 井上陽平