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インナーチャイルドを抱きしめて癒すこと


インナーチャイルドとは、心と身体の深層に潜む「内なる子ども」を指します。これは個人の中心にある純粋で穏やかな「本当の自分」であり、誰にも侵すことのできない無垢さを象徴しています。しかし、トラウマを抱えたインナーチャイルドは、深く傷つき、怒りを抱えていることがあります。時には、自分の意志に反する行動を取ったり、恐怖に震えながら泣き続け、心の痛みを感じています。

 

さらに、インナーチャイルドの状態は、その人がどのように育てられたかによって異なります。褒められ、愛されて育った子どもには、保護的で優しい守護者が心の中に存在し、その子どもを支えています。一方で、罰を受け続けた子どもには、内面に迫害的で厳しい批判者が根を下ろし、その存在が自己否定感を強める要因となっています。このように、インナーチャイルドは個人の内的システムの中で複雑に組み込まれており、過去の経験がその人の心の中でどのように作用しているかを物語っています。

 

褒められてきた良い子ども(インナーチャイルド)は、みんなが守ろうと大事にしてきた存在です。胸やお腹の中心にいて、外界の刺激を心と身体でもの凄く感じてしまうので、人間社会のストレスがかかると、すぐに固まって、心臓が痛むか、眠気に襲われて解離します。もともとは、真っ暗で輪郭しか見えない場所や海の底のような場所に閉じ込められてきたために、明るい現実世界に戻ると嬉しくてはしゃぎます。性格は無垢で、ワクワクウキウキして、目を輝かしています。

 

褒められて育った「良い子ども」(インナーチャイルド)は、周囲の人々に大切にされ、守られてきた存在です。このインナーチャイルドは、胸やお腹の中心に深く根付いており、外界からの刺激を敏感に感じ取ります。そのため、人間社会のストレスが加わると、すぐに体が固まり、心臓が痛むか、あるいは突然の眠気に襲われて解離状態に陥ることがあります。

 

このインナーチャイルドは、もともと暗闇の中や海の底のような、輪郭すらはっきりしない閉ざされた場所に閉じ込められていました。そんな場所から解放され、明るい現実世界に戻ると、喜びに満ち溢れ、その嬉しさから無邪気にはしゃぎます。性格は無垢で、純粋な好奇心に満ち、目を輝かせながらワクワクとウキウキを感じるその姿は、周囲の心を和ませる力を持っています。

 

しかし、その純粋さゆえに、現実世界の刺激やストレスに対して非常に脆弱であり、時折、外界の過酷さに耐えられず、再び内側に閉じこもろうとすることもあります。だからこそ、このインナーチャイルドを守り、健やかに育むことが重要なのです。

 

解離症状が深刻な人々の中には、心の奥底に深く閉じこもったインナーチャイルドが存在します。このインナーチャイルドは、膝を抱え、顔を埋めたまま、ガチガチに凍りついて動けなくなっています。彼は無表情で無感情、何一つ言葉を発することなく、ただじっとしているだけで、現実世界のどんな出来事も彼の心には響きません。あの日以来、彼は心を閉ざしたまま、深い眠りに落ちているのかもしれません。

 

このインナーチャイルドにとって、現実の世界は耐え難く、面倒で、目を覚ましたくないほどの苦痛が伴います。そのため、彼は目覚めることを拒み、このまま静かに死んでしまいたいとさえ思っているかもしれません。夜が更けると、自分にトラウマを負わせた加害者の足音が遠くから聞こえてくるように感じ、その度に怯え、「助けて」と叫びます。しかし、その叫び声は誰にも届くことなく、彼の心は再び凍りつき、まるで氷の地獄に閉じ込められてしまいます。

 

インナーチャイルドが生まれる過程は、幼少期のトラウマや危機的な状況に追い込まれた子どもが、その環境に適応するために特別な方法で成長する必要があることに起因します。こうした子どもたちは、恐怖や痛みを感じていては目的を達成できないため、次第に何も感じないように自分を変えていくのです。しかし、その一方で、弱く甘えることしかできない自己の部分は、日常の困難にさらされ、人目に曝されると息が詰まり、胸が痛み、恐怖の対象が次第に増えていきます。

 

こうして恐怖に押しつぶされそうになった子どもは、周囲の世界がますます怖くなり、どこか安全な場所に隠れようとします。その隠れ場所とは、何も聞こえず何も見えない真っ暗な部屋で、自分を休ませる場所です。あるいは、怖さのあまり、自分の身体から抜け出して宙に浮いているような感覚に陥ることもあります。さらに、どうすればよいのかを必死に考え、頭の中で様々な考え事を巡らせるようになり、現実から離れ、内面的な世界で生活するようになっていくのです。

 

このような過程を経て、子どもの中に二つの自己が存在することになります。一方では、現実に適応し成熟していく大人の部分が成長し、もう一方では、恐怖や不安に押し潰され退行したままの未熟な子どもの部分が取り残されます。この二つの自己は、それぞれ異なる成長の道を歩み、互いに分かれた存在として発展していくのです。こうして、インナーチャイルドという内面的な存在が形成されるのです。

 

精神分析家のシャーンドル・フェレンツィは、内なる子どもを、「無意識内の純粋に心的に苦悩している存在。覚醒時の自我がそれについてまったくなにも知らないもともとの子供である。この断片には、極端に疲労し消耗した状態、つまり神経症的(ヒステリー的)爆発のあとにおとずれる深い眠りかあるいは深いトランス状態においてしか触れることができない。分析家は、努力を重ねきわめて特殊な行動規範にのっとることによってはじめて、この部分、すなわち抑圧されたありのままの感情と接触することができる。それは気を失った子供のように振る舞い、自分自身についての認識をまったく欠いており、うめき声をあげるくらいしかできないので、精神的に、ときには身体的にも揺り起こしてやらねばならない。起こった出来事の現実性を徹底的に信じていなければ、「揺り起こし」も説得力や効果をもたない。しかし、分析家にその出来事があったという確信があり、苦悩する存在への共感的な感情がともなっているならば、周到な問いによってその存在の思考力と志向性を導いて、かつてのショック状況について少しでも語り思い出すところまで導くことができるだろう。」と述べています。

インナーチャイルドを呼び戻すには


子どもの頃にトラウマを経験した人は、その恐怖によって身体の感覚が次第に麻痺し、何も感じられなくなることがあります。これにより、自分自身が自分であることが難しくなり、内面的な混乱が生じます。トラウマを解放し、自己を取り戻すためには、「インナーチャイルド(内なる子ども)」と出会うことが重要です。

 

インナーチャイルドにアクセスするための方法としては、セラピストの指導のもと、身体の特定の部位に意識を集中させることがあります。例えば、みぞおちのあたりに感じるソワソワした感覚や、お腹のムカムカ、胸のザワザワ、肩や喉、顎の緊張などに注意を向けることで、当時の状況や感覚、そして感情を呼び覚ますことができます。子どもの頃に感じた苦しい感覚に再び触れることで、身体の固まった部分に意識を向け、その原因を探ることができるのです。

 

このプロセスでは、身体が固まり、気管支が圧迫されて息が止まりそうになることもあります。そのような時、恐怖や痛みから守るために、インナーチャイルドが現れることがあります。インナーチャイルドは、深い痛みが生じたときに姿を現し、その痛みを癒す力を持っています。

 

人格交代しない場合でも、体が固まるような場面で目を閉じ、自分の身体内部の感覚に意識を集中させると、冷たく凍りついた感覚が温かくピリピリとした波に変わることがあります。この変化により、自然治癒のエネルギーが身体に入り込み、全身がリラックスし、最高の状態を感じられる瞬間が訪れます。このようなセッションを繰り返すことで、本来の自分の感覚が徐々に戻り、心身のバランスが整っていくのです。

 

しかし、解離症状が重い人がインナーチャイルドを解放する際には注意が必要です。インナーチャイルドが持つ記憶や身体の痛みが蘇ることで、現在の生活に混乱をもたらすことがあります。もしその痛みに耐えられない場合、体調が悪化し、身体に異常が生じる可能性があります。さらに、インナーチャイルドが解放された結果、自分が自分でなくなり、まるで子どもに戻ってしまうような感覚を経験することがあります。

 

特に、夜に部屋で一人になったとき、思考力の低下によって、幼い頃の自分が現れることがあります。これまで甘えられなかった子どもの部分が表に出ると、本来の自分の意志に反して、普段は考えられないような恥ずかしい行動を取ったり、親しげに話しすぎたり、過去の傷を無防備に語ってしまうことがあります。このような行動は、後で大人の自分にとって嫌な思い出になることもあるでしょう。

 

インナーチャイルドの解放は、癒しのプロセスとして非常に重要ですが、その過程では十分な注意とサポートが必要です。大人の自分がしっかりとインナーチャイルドを受け止め、コントロールしながら進めることで、最終的にはより健全で安定した自分を取り戻すことができます。

 

参考文献

シャーンドル・フェレンツィ:『臨床日記』(訳 森茂起)みすず書房

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平