1.自己愛性パーソナリティ障害の人は…
自己愛性パーソナリティ障害を持つ人が自分の状態に気づくのは、実は若いうちには非常に稀なことです。病的な自己愛を持つ人々は、若い頃は自分の魅力や上昇志向に支えられて、成功を収めることが多いです。しかし、年を重ね中年期に差し掛かると、魅力が落ち、人間関係がうまくいかなくなり、それまでの成功の道に様々な障害が立ちはだかるようになります。こうした状況で喪失感を味わい、自分の思い描いた人生から離れていくと、家族との関係もぎくしゃくし始めます。そして、身体に不調が現れたり、うつや自責感に苛まれたり、慢性疾患に罹ることがあります。そうした苦しみの中で、ようやく自分の性格の問題に気づき、本やインターネットを通じて自己愛性パーソナリティ障害という言葉に出会うことがあります。
自己愛性パーソナリティ障害の人々は、自分自身が深刻な問題に直面しない限り、自分の性格の偏りに気づくことが難しいです。しかし、彼らの周りにいる人々は、その影響に悩まされ、次第に「あの人は自己愛性パーソナリティ障害ではないか」と気づき始めます。この障害を持つ人々は、求める対象の質が病的でありながら、学力や身体的能力が高く、問題解決能力にも優れています。そのため、社会の中で強者として位置づけられ、パワーハラスメントやモラルハラスメント、セクシャルハラスメントに関与していることが少なくありません。
このような問題を抱える自己愛性パーソナリティ障害の人々は、周囲に大きな影響を与えますが、気づくのが遅れがちであるため、周りの人々が先にその兆候を察知することが多いのです。自分自身の問題に直面し、初めて自己を見つめ直すことができるようになりますが、それまでに多くの人間関係が壊れてしまうことも少なくありません。
2.瞑想やリラクセーションを用いた治療法
自己愛性パーソナリティ障害を抱える人々の多くは、深いトラウマを負っています。その影響で、身体的には常に警戒状態にあり、自分が安全だとは感じられず、心と体が闘争・逃走反応に共鳴し続けています。特に、幼少期に経験した未解決のトラウマは、彼らを不条理な加害者に捕らえさせ、迫害されてきたという感覚を抱かせます。このような背景から、彼らは生き残るための戦略として、自分を強く保ち、孤独な戦いを続けてきました。自分にしかできない使命を抱え、誰にも頼らずに生きていくことを余儀なくされてきたのです。
当相談室では、こうしたトラウマに焦点を当てた身体的アプローチやリラクセーション技法を用いて、心身の過緊張を解きほぐし、闘争・逃走反応や麻痺状態を和らげるセラピーを行っています。これにより、呼吸数や心拍数、覚醒度などの生理的反応を通常の範囲に戻し、身体をリラックスさせることを目指します。セラピーの過程で、身体的な苦痛と安堵感を行き来することによって、嫌悪刺激に対しても過剰に反応することが少なくなり、心に余裕が生まれるようになります。身体的アプローチでは、絶望や悲しみ、そして無力な自分と向き合うことを通じて、最悪の状態を好転させ、心身を良い状態に導くことが可能です。
治療において特に重要なのは、十分なモチベーションを持ち、恐怖に打ちのめされた無力な自分と向き合う覚悟があるかどうかです。この要素が、治療の効果を大きく左右します。自己愛性パーソナリティ障害の根底にあるトラウマを乗り越えるためには、勇気を持って自分自身の深い部分と向き合い、心と体の緊張を解き放つことが必要不可欠です。このプロセスを通じて、彼らは本来の自己を取り戻し、より安定した人生を送るための一歩を踏み出すことができるのです。
セッションの流れは、まず最悪の事態や脅威、恥辱、そして取り返しのつかない恐怖など、過去の辛い経験を思い出してもらうところから始まります。このとき、身体が自然に収縮し、凍りついたような状態になることを促します。その状態をしばらく保つことで、息苦しさや麻痺感が生じますが、ここから身体の自然治癒力が働き始めます。凍りついた身体の中心から、まるで燃えるような熱いエネルギーが放たれると、全身がすっきりし、身体の内側から安心感を感じられるようになります。この変化は心にも波及し、より安定した精神状態へと導いていきます。
さらに、セッションでは自分の内的な精神活動や身体感覚の流れに意識を集中させることで、"今ここ"を生きる感覚を育てます。これにより、まとまりのある自己感覚を持つことができ、自分自身と他者が共に居心地よく過ごせる関係を築くために必要な考え方を育てます。最終的に、自分が本当に安心して過ごせる状態を支援し、日常生活に落ち着きを取り戻すことを目指します。
日常生活が落ち着きを取り戻すと、心の中の悪魔的な部分が影を潜め、良い自己の側面が表に出やすくなります。このプロセスでは、交感神経と腹側迷走神経のバランスを整えることが重要です。たとえ闘争や凍りつきといった情動や身体反応が生じたとしても、それらを意識の支配下に置き、その場で不適切な行動に出ないようにします。
また、自分の身体のメカニズムを理解することによって、ストレスによる自己中心的な行動が抑制されます。これにより、自制心が高まり、気持ちが静まり、より落ち着いて日常を過ごすことが可能となります。セッションを通じて、クライエントは自己の内面と向き合い、心身のバランスを取り戻すことで、より健全で安定した生活を築くことができるようになります。
3.対話を重視した治療法
自己愛性パーソナリティ障害の治療には、コフートの精神分析自己心理学に基づいたカウンセリングが効果的とされています。このアプローチでは、まずクライエントがセラピストをある程度理想化することが治療の進展に重要です。セラピストは、クライエントの内面に共感的に寄り添い、丁寧に話を聞くことが求められます。セラピスト自身が自分の無知や理解の不足を素直に認め、「分かっていなくてごめんなさい」「大切にできなくてごめんなさい」といった態度を示すことで、クライエントは自分の幼児的万能感の背後にあるトラウマに向き合うことができるようになります。
このプロセスを通じて、クライエントは自分の悲しみや苦しみ、傷つきやすさを徐々に表現できるようになります。また、憤りや怒り、嫉妬心といった感情を吐き出し、闘争を通じて攻撃性や迫害感を統合していくことが目指されます。精神分析の対象関係論の観点からは、クライエントが無事に抑うつ態勢に達することができれば、より現実的で等身大の自己を育てていく道が開かれるとされています。
さらに、親子間や学校社会での関係が複雑に絡み合い、クライエントを縛りつけている場合には、その成育歴を緻密に分析します。これまで抑圧されてきた憤怒の感情を解きほぐし、無意識のうちに犠牲となってきた「内なる子ども」を救い出すことが治療の一環として行われます。このプロセスは、セラピストの温かい共感と人間的な思いやりを通して進められます。
最終的に、このカウンセリングはクライエントが自分の行動が周囲に与えてきた影響を客観的に理解し、自分を変えていくためのモチベーションを高める場所となります。こうした自己理解の深化と変容への意欲が、クライエントがより健全な人間関係を築いていくための基盤となるのです。
自己愛性パーソナリティ障害を持つ人々は、他者を軽視し、利己的で自己中心的な行動を取りがちです。彼らは時に、見せかけの謙虚さや誠実さ、さらには自分の魅力やお金、巧みなトークを駆使して相手を説得し、支配することで人間関係を築こうとします。しかし、こうした利己的なアプローチによって築かれた人間関係は、表面的で脆いものになりがちです。
例えば、自分の財力が尽きたり、年齢を重ねて魅力が衰えたりすると、これまで彼らの支配を受け入れてきたパートナーは不満を募らせ、ついには関係が破綻することが多くなります。長年にわたり蓄積されたストレスや不満が噴出し、パートナーが文句を言い始めると、関係は一気に崩れてしまうのです。
自己愛性パーソナリティ障害を持つ人は、合理的な思考を好む傾向があります。そのため、人間関係を損得勘定の視点からのみ捉え、物事の効率や利益を重視しがちです。しかし、このような見方だけでは、本当に実りある、深い絆を築くことはできません。真に豊かな人間関係は、損得勘定を超えたところに存在するものです。
そこで提案したいのは、この世に数え切れないほどの人がいる中で、一人の人を全人格的に愛するという、一見不合理に思える行為が、実は最終的に最も深い幸せをもたらすという「不合理の合理性」です。この考え方は、利己的な支配や合理性の追求を超えて、他者と真に結びつく道を示しています。私たちは、こうした不合理の合理性について一緒に考え、理解を深めていくことで、より豊かで意味のある人間関係を築くことができるのです。
さらに、この世界には救いがなく、物質的であり、死や決まりきった出来事があるという現実があります。私たちは、時間や空間に縛られた人間の有限性を受け入れていく過程を通じて、成長していく必要があります。生きていく中で、すべてが自分の思い通りにいかないという現実の不確かさに直面し、その中で悲しみや思いやりの気持ちを育みながら、等身大の自分の中に強さや優しさを育てていくことが求められます。
このようなカウンセリングを受けることで、本当の自分を育て、傷つくことに耐えられるようになり、自分の失敗や欠点を恐れなくなります。自己理解が深まることで、内面的な強さを手に入れ、現実の厳しさに対処する力を身につけることができるのです。
人間は本来、欲求を満たしたいという欲望を身体に備えています。快楽を追求したり、優越感に浸りたいという思いから、損得を考えて行動することが一般的です。しかし、当カウンセリングルームでは、そのような欲望に基づく心を、人を愛する心へと転換することを目指します。また、仲間のために命を懸けて戦う精神や、リスクを負ってでも高い価値にコミットする意識を育て、新しい自分に生まれ変わるような変化を促すことを目標としています。
このプロセスを通じて、単なる欲望の追求から、より高次の意識状態へと成長し、自己の本質を理解し、深い満足感を得られるような人生を築くサポートを提供します。新しい自分への生まれ変わりを通じて、真に意味のある人生を歩んでいくための力を育んでいきましょう。
4.まとめ
このカウンセリングでは、対話を通じた心のケアと、感覚や感情の体験を重視した身体的アプローチを組み合わせて、心身両面からアプローチします。自己愛性パーソナリティ障害は、トラウマや発達障害の傾向など、神経発達に問題を抱えていることが多く、それが日常生活に影響を及ぼしています。普段は問題なく過ごせていても、不快な刺激やストレスに直面すると、脳と身体の神経が危険を察知し、筋肉が硬直します。こうした状況下で、自己愛性パーソナリティ障害の人は、甘えられる対象に攻撃を向け、心の中の不安やモヤモヤを発散しようとすることがあります。
日常生活においては、自分の情動脳の働きや、脅威を遠ざけようとする防衛反応、凍りつきや闘争といった身体反応、そして突発的な出来事に対する脆弱性を理解することが重要です。この理解を深めることで、無意識に反応するのではなく、意識的に行動できるようになることを目指します。
さらに、カウンセリングを通じて傷つきにくくなることで、自分の失敗や欠点を恐れる気持ちが和らぎます。これにより、より健全な自己認識が育まれ、困難な状況でも冷静に対処できるようになり、日常生活の中での心の安定が得られるようになります。
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論考 井上陽平