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人格構造の分裂と多重性


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 第1節.

意識の二重性


1. 多重自己の現実とトラウマの影響

 

意識とは、単なる自己意識にとどまらず、意識される自己とその自己を意識する別の自己という二面性を持っています。私たちの心の中には、たった一人の自己が存在するのではなく、相反する複数の自己が存在しており、それぞれが自分の幸せや快適さを求めてせめぎ合っています。日常生活では、目先の欲求に従おうとする自己と、将来の目標を設定する自己が存在し、さらに深く関わる人間関係の数だけ自己が存在しています。これは、人間が多重自己状態にあることを意味し、健康な人の場合、これらの自己状態間で相互に連結することが容易ですが、極限のストレス下にある人の場合、自己は分裂し、動けなくなる部分と、生き残りをかけて警戒している部分に分かれることがあります。

 

2. 離人感と自己の分裂

 

特に痛ましい出来事を体験した人に生じる離人感は、自己の分裂の一形態です。この状態では、体から自分が切り離されたような感覚が持続的または反復的に起こり、現実感が薄れることがあります。虐待を受けている子どもが、親との辛い体験を乗り越えるために現実から逃避し、もう一人の自分にその状況を任せることがあるのは、この離人感の一例です。また、生死の狭間に置かれた極限の状況下では、知覚が断片化し、上空や様々な角度から自分を眺める自己が現れることがあります。このような場合、体は生き残るために必死にもがいていますが、意識はその状況を超越しているように感じられます。

 

3. 恐怖と怒りによる自己保存エネルギー

 

外傷的な体験にさらされている人は、恐怖と激しい怒りという自己保存エネルギーに支配され、心と体が別々に動きます。生き残りを図る本能的な部分は四肢を使って反応し、日常を過ごす部分は恐怖に怯えて動けなくなり、後退して自分を傍観するようになります。複雑なトラウマを抱え、PTSDや解離症状を持つ人々は、ビクッとさせる刺激や好奇心を引き起こすものに対して過覚醒になりやすく、気分が高揚すると何でもできそうな気分になる一方で、危険を避けるために過剰に警戒することがあります。このような状態では、体がしんどくなる場面で意識レベルが低下し、思考力や判断力が下がり、動けなくなって鬱状態に陥ることがあります。

 

4. 解離状態と自己の一貫性の喪失

 

PTSDや解離症状を抱える人は、外界からのストレスによって原始的な神経の働きが活発になり、意識の覚醒レベルが上下して自己の一貫性が失われ、心と体の状態が変化します。解離状態にある人は、心と体がバラバラで、切り離されている感覚を持ち、自分がしたくないことまでしてしまうことがあります。心が夢の世界に逃避している間に、体は現実世界で動き続け、優しくしてくれた人を傷つけたり、嫌な相手から逃れたいと思っても体が勝手に従ってしまうことがあるのです。

 

5. 自己の分裂と極限のストレス

 

トラウマを負い、生活空間全体がストレス過多となって限界を超えている人は、何かの行為をしている自分と、別の思考が自動的に頭の中で話し合っている自分、さらにその行為や思考をコントロールしようと考えている自分に分かれることがあります。また、ある刺激に対して体が敏感に反応してしまう自分と、理性的にその反応を抑えようとする自分が存在する場合もあります。慢性化したトラウマの影響は、極端に分裂した自己意識と自己矛盾、体の違和感を生み出し、それに耐えられなくなると、どうしてよいか分からなくなり、頭が真っ白になり、凍りつきや過剰な覚醒といった状態に陥ることがあります。

 第2節.

自己の二重性


1. 発達早期の親子関係と自己イメージの形成

 

子どもは、発達早期の親子関係を通じて形成された自己イメージを保つために、外部の情報を自分に都合よく歪める傾向があります。特に、悪い親(悪い対象)に育てられた子どもは、理想化された良い親(良い対象)と良い自己イメージを維持するために、外の世界を歪んで認識しがちです。このような歪んだ認識が、精神病理の形成に繋がることがあります。子どもにとって親は唯一無二の存在であり、依存しなければ生きていけません。親は時に魅力的で誘惑的であり、恐ろしい存在でもあります。

 

2. 不幸な環境と自己分裂

 

不幸にも悪い親に育てられた子どもは、必死に自分を良く見せようと努力しますが、やがてどうしようもない親を持った自分の不幸を呪い、まともな生活が送れない悲しみや怒りに苛まれます。絶望の中で、子どもは親以外の対象に理想を見出そうとしたり、嗜癖に逃げ込んだりします。しかし、親との愛着システムが作動すると、たったひとりの親を憎むことができず、愛されたい、愛したいという矛盾した気持ちに苦しむのです。

 

3.トラウマと自己の分裂

 

過酷な環境やトラウマ的な経験は、子どもの心に大きな傷を残し、自己の分裂を引き起こします。か弱く甘えたい自分は外の世界との繋がりを失い、生き延びるために内向的で受動的な状態に留まりますが、もう一方の自己は能動的で、至高の目標に向かって進んでいきます。成長できなかった子どもの部分は、宇宙に放り出されたように孤立し、心の奥深くに閉じこもります。一方で、成長したもう一人の自己は、感情を失い、表面的に取り繕って生きるようになることがあります。このように、もともと一体化していた自己が二つに分裂し、成長した部分と退行した部分がそれぞれ異なる役割を果たすようになるのです。

 

4. 成熟と退行の葛藤

 

一般的に、成長しようとする自己の部分は、退行した自己の部分に足を引っ張られることがあります。成長した部分が恥ずかしくてできないことを、退行した部分が後先考えずに行動し、遊びに夢中になることがあります。また、年齢を重ねると、大人の部分が生活全般を担うようになりますが、夜中に一人になると、退行した子どもの部分が表に出てきて、その間の記憶が残らないこともあります。

 

5. トラウマ後の成長と不適応

 

トラウマを負った子どもでも、学問やスポーツに好奇心を持ち、社会の中でエンパワーメントを得ることができれば、トラウマ後の成長に繋がります。しかし、勉強が苦手で家庭や学校に適応できない場合、子どもは反抗的な態度を取り、問題を起こして注目を集めるようになります。一部の子どもは、おどけて悪ふざけをしたり、ストレスに対処できずヒステリー状態に陥ったり、意志のない人形のように生きることがあります。これらの子どもは、大人になると自己愛的、反社会的、ヒステリー的、依存的、回避的なパーソナリティを持つことが多くなります。

 

6. 情動脳と理性脳のバランスの崩れ

 

乳児期から児童期にかけて虐待を受けた子どもは、情動脳(脳幹や大脳辺縁系)がネガティブな体験を記憶し、理性脳との間でバランスを崩すことがあります。その結果、トラウマを負った子どもは自己調整機能や覚醒度のコントロールが難しくなり、理性的な部分が自分の感情や生理的反応を抑制する方向に条件づけられていきます。情動的な部分は自己中心的で傲慢に振る舞うことがあり、相手や場面によって極端な反応を示すことがあります。

 

7. 傲慢と抑制の間で揺れる自己

 

自己愛過敏型(解離傾向)の人は、普段は抑制的で大人しい部分が表に出ていますが、内側には傲慢に振る舞う誇大な部分が存在していることがあります。厳格な大人に対しては抑制的な部分が対応しますが、自分より下の相手には傲慢に振る舞うことがあり、状況に応じて表面化する自己が変わります。このように、傲慢と抑制の間で揺れる自己は、外傷体験や発達障害の影響によってさらに複雑なものとなり、自己分裂が進行していくことがあります。

 第3節.

自己の三重性


1. サディスティックな虐待とその影響

 

サディスティックな虐待やいじめを受けている子どもは、極度のストレスや恐怖に常にさらされ、その影響は身体と精神の両方に深刻な影響を与えます。虐待による恐怖から、子どもの体は反応し、お腹に力が入り、肩が内に入り、呼吸が浅くなり、体が固まります。パニック状態に陥ると、頭が真っ白になり、体はまるで「死んだふり」をするかのように虚脱状態に陥り、背側迷走神経が支配する状態になります。この状態では、通常の生活を担うべき基本人格の機能が停止し、心身が閉じ込められたような感覚に陥ります。

 

2. 多重人格の形成と機能分裂

 

基本人格は、過酷な環境や大人からの過剰な要求に応えざるを得ない状況で、他の人格を作り出すことで生き延びようとします。新たに形成された人格は、基本人格が抱える生活全般の困難を代わりに担うことになりますが、その中でも特にサディスティックな暴力を受ける部分は二重に分裂することがあります。

一方の人格は、虐待者に対して激しい憎しみを抱き、暴力で応戦しようとする攻撃的な部分です。この人格は、ストレスホルモンが高く、過剰な覚醒状態にあり、怒りを爆発させることで、さらに虐待を招くことがあります。この攻撃的な部分は、その危険性ゆえに、社会生活や人間関係を壊してしまうため、表に出てきてほしくないと感じられることが多いです。学校では他者を傷つけ、交友関係を破壊するため、孤立しがちで「頭がおかしい」と見なされることもあります。

 

3. 適応と自己防衛のための人格

 

もう一方の人格は、サディスティックな虐待から生き延びるために、相手に好意を持ち、愛想よく振る舞う部分です。この人格は、笑顔で天使のように振る舞い、服従することで虐待者の怒りを回避しようとします。ストレスホルモンが低く、辛さや憎しみを忘れるために自己をカモフラージュし、何も感じないように努めます。しかし、相手に合わせ続けることで要求がエスカレートし、次第に耐えられなくなります。最終的には、平静さを失い、滑稽なピエロのような振る舞いに走るか、パニックを起こすか、怒りを爆発させるかのいずれかに陥る可能性があります。

 

4. 懲罰と変性意識状態

 

サディスティックな親からの懲罰やお仕置きを受けた子どもは、その痛みから逃れるために意識を変性状態に置き、交代人格を生み出していくことで苦難を乗り越えようとします。神経が張りつめ、体が凍りついた状態が続くと、どんな小さな刺激でも鋭い痛みを感じるようになります。最終的に、基本人格はエネルギーを使い果たし、眠りに落ち、代わりに別の人格が役割を引き受けることになります。

 

5. 基本人格の眠りと代替人格の台頭

 

日常生活に適応した人格部分が基本人格を乗っ取り、あたかも正常であるかのように振る舞い、生活を続けていきます。基本人格は眠り続けることで成長の機会を失い、子どものままでいることが多くなります。その結果、生活全般をこなすスキルが不足し、常に体の中でじっとしている状態が続きます。このような状況では、基本人格が表に出てくることは少なくなり、代替人格がその役割を担い続けることになります。

 

6. 人格の分裂とその影響

 

このようにして、サディスティックな虐待によって形成された複数の人格が、それぞれ異なる役割を担いながら生活を続けることになります。しかし、これらの人格は互いに対立し、統合されることが難しいため、自己の一貫性が失われ、心と体がバラバラに感じられることがあります。自己が分裂した状態で生きることは、常に緊張状態に置かれ、正常な生活を送ることが難しくなります。結果として、虐待の影響は長期的に続き、精神的な健康に深刻な影響を及ぼすことになります。

 第4節.

自己の多重性


1. 人格の分裂とその役割

 

基本人格が無力化され、眠りについてしまうと、その結果、人格は二つに分裂します。一つは退行して子どものまま取り残された部分であり、もう一つは、表面的には正常に日常生活をこなそうとする部分です。この二つの人格が存在する中で、保護者人格(守護人格)と呼ばれる新たな人格が登場します。保護者人格は、退行した子どもと成熟した子どもの間に位置し、日常を過ごす主人格の隣で支援を行います。困難な状況に直面したとき、この保護者人格が主人格を守り、助ける役割を果たします。

 

2. 日常生活を支える複数の人格

 

日常生活を送る人格が、あたかも正常であるかのように振る舞っている一方で、内部ではさらに分裂が進むことがあります。特に、加害者に反撃しようとする攻撃的な部分や、犠牲者としての役割を担う部分が存在する場合です。このような分裂した人格の間で、管理者人格と呼ばれる別の人格が関与することがあります。管理者人格は、全体のシステムを監督し、それぞれの人格の記憶や役割を把握しています。特に、交感神経システムが過剰に覚醒し、怒りや攻撃性が爆発しそうな時には、管理者人格がそれを抑制し、緊急事態が発生しないように努めます。

 

3. 管理者人格の役割

 

管理者人格は、外の世界を慎重に観察し、外部からの刺激が内部の人格にどのような影響を与えるかを常に意識しています。内部では、日常生活を送る人格が逃げ出したりしないように、声をかけたり、必要に応じて他の交代人格を呼び出したりして、人格交代をスムーズに進行させる役割を担っています。このようにして、内部の複雑なシステムが秩序を保ち、外部からの刺激に対しても安定した反応を示せるように努力しています。

 

4. 内部世界の複雑な組織化

 

複合的なトラウマを負った人は、外部からの刺激に対して凍りついたり、感情を爆発させたりすることが多く、これが日常生活に大きな影響を与えます。そのため、内部世界を知覚し、認識し、制御することが必要になります。管理者人格や保護者人格といった複数の人格が協力し合い、複雑に組織化された内部構造を築き上げることで、日常生活を安定させるためのシステムが形成されます。この結果、身体の中に複数の自己が存在するようになり、それぞれが特定の役割を果たしながら共存していくのです。

 

5. 複数の自己の共存

 

このように、人格の分裂は一見混乱を招くように思われますが、それぞれの人格が特定の役割を果たすことで、全体としてのバランスが保たれます。保護者人格や管理者人格の存在は、分裂した自己が共存し、外部からの刺激に適切に反応できるように支援します。結果として、内部世界が複雑に組織化され、外部の現実に対する安定した対応が可能になります。このシステムがうまく機能することで、複数の自己がそれぞれの役割を果たしながら共存し、個人としての全体性が維持されるのです。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

更新:2020-06-20

論考 井上陽平

 

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