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摂食障害の複雑な背景


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摂食障害の要因

 

摂食障害は、単なる食欲や食行動の異常ではなく、体重や体型に対する過度なこだわりや、それが自己評価に強く影響を及ぼすといった心理的要因に基づく疾患です。厚生労働省の定義によれば、摂食障害は神経性食欲不振症(拒食症)と神経性過食症(過食症)の二つに大別されます。

 

摂食障害の原因は多岐にわたりますが、例えば、軽い気持ちで始めたダイエットがきっかけとなることがよくあります。特に若い女性においては、外見に対する劣等感や他人の視線が気になることで、痩せたい、綺麗になりたいという欲求が高まり、適切な運動を伴わずに極端な食事制限を行うことがあります。また、理想の自分と現実の自分とのギャップを埋めるために、食事を過度に制限するようになるケースもあります。

 

さらに、痩せていることを美徳とし、肥満を嫌悪する社会的・文化的なプレッシャーも、摂食障害を引き起こす要因となります。最初は軽い気持ちで始めたダイエットが徐々にエスカレートし、痩せているにもかかわらず太ることへの恐怖から拒食症を発症することがあります。その結果、食事を避けるだけでなく、過食と嘔吐を繰り返したり、下剤の乱用などの代償行動に走ることで、摂食障害がさらに悪化することがあります。

 

▶親子関係の要因

 

両親の顔色を伺いながら「良い子」として育った人々は、家族を理想化する傾向があります。しかし、思春期から青年期にかけて、次第に親の本当の姿や、子どもに対する冷酷な態度に気づくようになることがあります。その結果、心に大きな衝撃を受け、摂食障害や強迫性障害、パニック障害、不安障害などを発症することがあります。

 

特に母子関係のストレスにおいては、母親の期待に応えようと必死に努力し、さらに父親のことで苦しむ母親を支えようとすることがあります。しかし、その努力が報われることなく、自分が苦しんでいる姿を母親に見せても、拒絶される経験を繰り返します。家族を良くしようと懸命に努めても、愛情を得られず、自分の努力が報われない現実に直面するたびに、「良い子」でいることの無意味さを痛感するようになります。そして、自分がどれほど努力しても、理想的な家族や自分自身にはたどり着けないことを悟り、心の中で絶望感が深まっていくのです。

 

▶トラウマの要因

 

幼少期からトラウマや発達障害の傾向があり、神経が過敏な人々は、嫌悪刺激に対して非常に強いショックを受けやすくなります。その結果、快と不快、美しさと醜さを極端に分けて考え、美醜に過度にこだわるようになります。また、他者の視線や表情、感情、そして世間体ばかりを気にするあまり、自分の軸を見失い、自分が他人にどう思われているかが最も重要な問題になってしまいます。自信を持てず、無力感を抱える中で、自己愛が過剰になると、外見に強く執着し、自分が美しくないと受け入れられないという強迫観念に囚われることがあり、結果的に摂食障害のリスクが高まります。

 

トラウマの影響で、脳と体はこの世界を危険な場所だと感じ、身体は慢性的に収縮し、特に嫌悪刺激に対しては体が固まってしまいます。そのため、常に周囲の視線を気にするようになり、自分の外見が良くないと感じることは非常に危険だと感じるようになります。一方で、周囲に良く思われることが自分の安心感につながるため、外見に執着し続けることで、さらに摂食障害を患うリスクが高まるのです。このように、外見へのこだわりは、自己愛の病理とトラウマが絡み合い、心身の健康に深刻な影響を及ぼすことがあります。

 

摂食障害における過食嘔吐は、体内に蓄積されたトラウマが原因で自律神経系の調整が乱れ、身体が凍りついたり麻痺したりして、無力感や絶望から抜け出せなくなる人に見られます。恐怖心や絶望感が強いと、背側迷走神経が過剰に働き、胃腸の消化活動が活発になり、すぐに空腹を感じるため、空腹のイライラを抑えようとして過食嘔吐に至ることがあります。また、絶望的な状態から抜け出せない苛立ちや焦りが交感神経系を過覚醒させ、凍りつきや虚脱、パニックなどの状態に対処する手段としても過食嘔吐が用いられます。

 

さらに、トラウマのトリガーが無意識に引かれることで、交感神経が過度に働き、その場にじっとしていられなくなると、覚醒水準やストレスを引き下げるための手段として過食嘔吐が使われることもあります。過覚醒の状態ではソワソワして落ち着かず、身体が凍りついていく不快感や恐怖、過緊張から逃れるためにも過食嘔吐が行われます。さらに、現実があまりにも苦痛で無感覚になり、楽しめない苛立ちが強まると、身体を緩めて自分を落ち着かせる方法として過食嘔吐が選ばれることがあります。

 

一方、拒食症の場合、ストレスがピークに達し、解離症状が重篤になると感覚が麻痺し、味覚や食欲が失われ、食べること自体が苦痛に感じられることがあります。また、虚脱状態に陥ることで手足に力が入らず、エネルギーを最小限に抑える生活へと移行し、拒食へと発展することがあります。特に、性暴力の被害に遭った人が同じような被害に遭わないために、心の防衛として女性性を拒否するために過食や拒食に走ることもあります。また、発達早期のトラウマや性暴力によってボディイメージが歪むことが原因で摂食障害が引き起こされることもあります。

 

さらに、母子関係や夫婦関係など、家庭内でのストレスや深いトラウマが影響し、摂食障害が発症することもあります。このように、摂食障害は単なる食行動の問題にとどまらず、深い心理的、身体的背景が絡み合った複雑な問題であることが多いのです。

 

▶病理の中核は食べ物への異常な執着

 

長期にわたる不安やストレスが原因で睡眠不足に陥っても、人は食べることでエネルギーを補給し、心身のバランスを保とうとします。しかし、現代の多くの女性は、痩せることへの強い願望から、食べた後に吐くことで体重をコントロールしたり、極端に食事を制限することがあります。このような過度の食事制限や過食嘔吐を繰り返すと、身体は飢餓状態に陥り、常に空腹を感じるようになります。結果として、脳は自然と食べ物に対する関心を高め、大量の食料を確保しようとする衝動を抑えられなくなります。

 

この状況では、心が「太りたくない」という強い願望と、食べ物への執着という相反する感情の間で揺れ動き、アンビバレンスな状態に支配されていきます。これは、ボクシングの選手が減量のために過度な食事制限を行うと、次第に食べ物への強い興味が湧いてくる現象と似ています。

 

このような飢餓状態は、アフリカなどで食糧不足が原因で生じるものとは異なり、食料が豊富にある環境下で起こる飢餓です。この飢餓状態を引き起こす要因には、社会的なプレッシャーや身体イメージへの過剰なこだわり、心理的なストレスなど、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。

 

▶摂食障害の症状

 

過度なダイエットで身体が飢餓状態に陥ると、食べ物への関心が異常に高まり、食欲を抑えることが難しくなります。ほんの一口食べただけでも、その欲求が一気に膨らみ、反動で過食に走ってしまうことがよくあります。しかし、痩せているにもかかわらず、太ることへの強い恐怖があるため、過食の後には体重を増やさないための代償行為として、嘔吐や下剤の使用を繰り返すようになります。

 

過食により一時的に飢餓状態が和らぐものの、吐き出す行為が続くことで栄養状態は悪化し、身体はますます飢餓状態に陥ります。これが慢性化すると、脳機能や全身が飢餓状態に適応し、抑うつ、不安、過敏性、易怒性などの精神的症状が顕著になり、精神状態が不安定になります。その結果、過食によって一時的に精神状態を落ち着かせ、嘔吐や下剤を使用する行為そのものが快楽となり、さらに認知機能にも深刻な歪みが生じます。

 

たとえば、摂食障害を抱える人は、外見的には痩せ細っているにもかかわらず、自分を太っていると強く信じ込むことがあります。これは、彼らの頭の中で現実が歪んで認識されているためです。また、自分のご飯をよそうとき、実際にはほんの少量しかよそっていないのに、本人には丼一杯のご飯をよそったかのように感じることがあります。

 

このような認知の歪みは、飢餓状態とその結果としての精神的、身体的ストレスが複雑に絡み合い、深刻な摂食障害へと繋がっていくのです。

 

摂食障害者は、過食と嘔吐を繰り返すことで、食べ過ぎた後にさらなる食欲を抑えられなくなり、普通の食事に加えてさらに2食分ほどの食べ物を詰め込むことがあります。このような過食の習慣が続くと、食費が大幅にかさみ、食品を購入するための資金が不足することがあります。最悪の場合、食べ物を手に入れるために万引きに手を染め、その結果、過食と嘔吐を繰り返す日常が形成されてしまうことがあります。ある調査によれば、摂食障害を抱える患者の44%が万引きを行った経験があると報告されています。

 

摂食障害者は、食べ物に対する強い執着を持ちながらも、低栄養状態の影響で脳が萎縮し、認知機能が低下することで、善悪の判断力や自己抑制力が低下してしまいます。その結果、万引きに走ることもあります。また、摂食障害は心の余裕を奪い、他者への共感力や内面を想像する力が低下し、自己中心的な性格に陥ることがあります。こうして友人を作ることが難しくなり、内向的になって閉じこもりがちになります。

 

さらに、摂食障害は自傷行為や自殺企図、アルコールや薬物依存といった自己破壊的な行動を引き起こすことがあり、人生を台無しにするばかりか、生命の危機に直面することさえあります。周囲がその痩せた体を心配して食べさせようとすると、本人は食べることへの恐怖が増し、食事を拒否する拒食症(制限型)に陥ることも少なくありません。このような状況は、摂食障害が単なる食行動の問題にとどまらず、深刻な心理的・身体的な問題を伴うものであることを示しています。

 

摂食障害による身体への影響は

摂食障害に陥ると、栄養状態が徐々に悪化し、やがて脳そのものが飢餓状態に陥ります。この結果、心身ともに深刻なダメージを受け、体調不良や精神状態の不安定さが引き起こされます。具体的には、ホルモンバランスの崩れによる月経不順や、ミネラルバランスの乱れによる低カリウム血症、低血糖症、さらには糖尿病や骨粗しょう症といった様々な症状が発症します。特に成長期に摂食障害にかかると、命の危険にさらされることもあるため、注意が必要です。

 

体内でどのような現象が起きているかを見てみましょう。

 

飢餓状態が続くと、体内のグリコーゲンが分解され、蓄えられていた糖分が消費されます。絶食がさらに続くと、筋肉に蓄えられている糖原性アミノ酸がエネルギー源として使われ、筋肉が減少し始めます。この段階を越えると、ケト原性アミノ酸が消費され、これによって生成されるケトン体が過剰になることで、ケトン血症やケトン尿症を引き起こします。これらの状態が進行すると、脱水症状、嘔吐、頭痛、頻脈、低血糖を伴い、さらに悪化すると昏睡や意識障害などの重篤な症状が現れ、脳機能に深刻なダメージを与えることがあります。

 

したがって、ダイエットやエネルギー制限を行う際は、慎重に行い、適度な範囲に留めることが極めて重要です。過度な制限は、身体と心に取り返しのつかない影響を及ぼす可能性があるため、自己管理を徹底することが求められます。

 

摂食障害の要因は

摂食障害を引き起こす原因は、多岐にわたり複雑な背景が絡み合っています。以下に列挙した要因は、摂食障害が依存的で重篤な状態に至る背景として考えられるものです。

  • 思春期の影響: 発症が圧倒的に思春期に集中していることから、ストレスや家庭環境、成長期への不安が主要な要因となることが多いです。
  • 体重や体型への過度のこだわり: 特に外見に対する強いプレッシャーが、摂食障害を引き起こすきっかけになります。
  • 過去のトラウマ: 過覚醒や凍りつきの状態を和らげるための過食、嘔吐への快感、親に苦しみを気づいてほしいという訴えとしての拒食などが見られます。
  • 発達障害の傾向: 神経発達に問題があり、神経が繊細すぎるために摂食障害に陥りやすい傾向があります。
  • 家庭環境の影響: 両親の不和、長期の分離や片親家庭、愛情不足、過度の期待など、家庭内の問題が摂食障害の発症に深く関わることがあります。
  • 職業的プレッシャー: 体重管理が厳しいスポーツ選手やモデルは、特にリスクが高いです。
  • 自尊心や自己評価の不足: 自己評価が低いことが、摂食障害を引き起こす要因となります。
  • エスカレートするダイエット: 軽い気持ちで始めたダイエットが次第にエスカレートし、摂食障害へと進行することがあります。
  • ボディイメージの障害: 自分の身体に対する認識が歪んでいることが、摂食障害を悪化させる要因となります。
  • 社会的文化的要因: 痩せを礼賛し、肥満を蔑視する社会的な圧力が、摂食障害の引き金となることが少なくありません。
  • 身体的問題: 低血糖症や胃腸の弱さなど、身体に関する問題も摂食障害のリスクを高めます。
  • 神経伝達物質の不足: 脳の満腹中枢に情報を伝える神経伝達物質の不足により、満腹感を感じられなくなり、過食がエスカレートすることがあります。
  • 生得的な発達のアンバランス: 生まれつきの発達のアンバランスさも、摂食障害の背景にある可能性があります。

これらの要因が複合的に影響し合うことで、摂食障害が発症し、重篤化していくのです。そのため、治療にはそれぞれの背景を丁寧に掘り下げ、総合的なアプローチが必要です。

どのような人が摂食障害になりやすいのか

摂食障害は、その背景に生真面目さと、融通の利かなさを抱える人に多く見られる傾向があります。これらの人々は、ストレスを適切に解消する方法を持たず、その結果、拒食や過食がストレスから逃れる唯一の手段となり、次第に深刻な状況に陥る危険性をはらんでいます。

  1. 完璧主義な人: 何事にも完璧を求めるあまり、失敗や不完全さを許せず、そのストレスが摂食行動に影響を与えることがあります。

  2. 自分をコントロールしたい人: 自分の生活や感情を完璧にコントロールしようとする意欲が、食事や体重管理に対する過度な執着を生みやすいです。

  3. いつでも良い子でいたい人: 他者からの評価を常に気にし、周囲の期待に応えようとするプレッシャーが、摂食障害の引き金となることがあります。

  4. 優柔不断で自信がない人: 自分の選択に自信を持てず、自己評価が低いことで、不安やストレスが溜まりやすく、これが摂食行動に悪影響を及ぼすことがあります。

  5. ストレス解消がうまくない人: ストレスを発散する手段を見つけられない場合、食事が唯一の逃避手段となり、過食や拒食に繋がることがあります。

  6. 自己評価が低い人、コンプレックスがある人: 自分自身に対するネガティブな認識やコンプレックスが、過度なダイエットや摂食障害を引き起こす原因となることがあります。

これらの特徴を持つ人々は、摂食障害に陥りやすい傾向があります。適切なストレス管理や自己評価の改善が、予防や回復への重要なステップとなるでしょう。

 

当カウンセリングルームの取り組みは

摂食障害の治療には長い時間と根気が必要です。症状が進行して重篤化すると、心理療法だけでの回復が困難になり、入院治療が数カ月にわたって必要になることもあります。低栄養状態が続くと、脳の機能が低下し、思考力が失われ、感情のコントロールが難しくなり、身体全体に異常が現れ、自己調整機能が崩壊していきます。したがって、摂食障害の治療においては、早期発見と早期治療が極めて重要です。

 

当相談室では、カウンセリングや身体志向アプローチに加え、ジョギングやジムトレーニングなどの運動療法、適正な食事管理を通じて、健康的な生活習慣の確立を目指しています。適度な運動によって余分なエネルギーを消費しながら、バランスの取れた食事を摂ることで、摂食障害の予防とケアに取り組んでいます。

 

また、摂食障害は、過去のトラウマ体験や自己愛の傷つき、ボディイメージの歪み、自己イメージの喪失、感情の麻痺、交感神経の過剰な緊張と覚醒、原始的な神経反応による「凍りつき」など、複雑な心理的・身体的要因が絡み合って発症します。食べたものを吸収させないように嘔吐する行為は、快感を得るための一種の自傷行為であり、このような行動に対処するためには、心と身体の痛みをケアする包括的なアプローチが必要です。

 

治療では、摂食障害に伴う強烈な食べ物への執着心と向き合いながら、患者が本来の美しさと健康を取り戻せるよう、共に取り組んでいきます。さらに、患者本人だけでなく、家族も含めたサポートが重要であり、特に失敗を恐れず、忍耐強く伴走してくれる人の存在が治療の成功に欠かせません。

 

最終的には、瞑想を取り入れることで、自然治癒力を引き出し、過剰な緊張や凍りついた状態をほぐしていきます。また、継続的なカウンセリングを通じて、これまで避けてきた自分の問題と向き合い、それに対応できる心を育てていくことが、摂食障害を克服するための大切なステップとなります。

 

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