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解離性同一性障害の原因:人格分裂のメカニズム


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 第1節.

外傷体験による人格構造の裂け目


解離症状が発生する背景には、命の危機に直面し、生きるか死ぬかの極限状態が存在します。これは、その人がどれだけ必死に抵抗しても敵わず、脅威が長期的に続き、逃げ場を失った時に起こります。その結果、心身のバランスが崩れ、身体感覚や時間感覚、思考や感情が捻じれ、バラバラになることがあります。こうした人格構造の崩壊は、拷問、奴隷、集団虐殺といった極端な状況に限らず、家庭内暴力、性的虐待、身体的虐待、ネグレクト、いじめ、事件や事故、自然災害、手術や出生時の医療処置など、日常生活で経験するさまざまなトラウマによっても引き起こされます。さらには、自殺未遂や原因不明の身体症状も、心身の崩壊に繋がる要因となるのです。

 

1.極限状態での心と身体の分離: 防衛反応としての知覚の断片化

 

人間は生命の危機に直面すると、目の前の恐ろしい現実から自分を守るために、意識をその出来事から遠ざけようとします。これが心と身体の分離を引き起こし、結果として知覚が断片化され、記憶や意識が途絶える状態に陥ります。時には、二つ以上の自分が存在するかのような曖昧な感覚に囚われることもあります。この反応は、心が限界を超えた時に生じる、極限状態への適応策の一つといえます。

 

例えば、人が入水自殺を図る際、死のうとする意志に反して、身体は強烈な本能によって生きようとします。水の中で必死にもがき、泳ごうとするのはその証拠です。しかし、同時に生きようとする自分を軽蔑している部分、体が流されることで無力さや諦めを感じる部分、さらには上空から自分を冷静に眺める部分が現れることがあります。このように、極限のストレス下では神経系が極度に緊張し、ついには心が身体から離れ、知覚する自己が断片化していく現象が起こります。これは、心があまりにも強い痛みや恐怖に耐えられなくなった時に生じる防衛反応です。

 

2.解離と自己分裂: 虐待による防衛反応のメカニズム

 

虐待を受ける子どもは、非常に強いストレスにさらされる中で、自分を分割するような体験をすることがあります。このような分裂的な防衛反応は、極限状態において心が生き延びるために作り出す自然な仕組みです。以下にいくつかの具体的な例を挙げてみましょう。

  1. 虐待を体験する子どもと観察する子ども
    虐待を受けている最中、子どもは自分を分裂させ、体験する側と観察する側に分かれることがあります。一方では、身体的・精神的な苦痛を感じ、もう一方ではその状況をまるで外部から観察しているかのように感じるのです。このように、自分がその場で被害を受けている感覚と、外から冷静に見ている感覚が同時に存在します。

  2. 愛着を持つ子どもと防衛的な子ども
    虐待されながらも、加害者である親に対して愛着を抱く子どもと、自分の心を守るために距離を置き、防衛的な態度を取る子どもという二つの側面が現れることがあります。これは、子どもの心理が「愛されたい」という本能的な欲求と「自分を守らなければならない」という防衛反応の間で葛藤しているためです。

  3. 現実感を失った子どもと恐怖を感じる子ども
    強要された状況において、子どもは現実感を失い、感情や出来事をまるで遠くから見ているように感じる一方、別の部分では恐怖を生々しく感じていることがあります。身体感覚だけが残り、感情や恐怖が切り離されるこの現象は、強烈なストレス下での防衛反応の一種です。

解離や離人的な防衛反応を持つ人々は、こうした痛みや恐怖から逃れるために、あたかも自分がその場にいないかのように感じ、自分自身を遠くに置くことがあります。これによって、直面している恐ろしい出来事を冷静に対処し、感情的な巻き込まれを防ぎながら、無垢な精神を守り続けるのです。

 

これらの防衛反応は、過酷な状況に適応するために心が自ら作り出す非常に重要な仕組みであり、外傷体験に対する一時的な自己保護の手段となります。しかし、このような適応が長期化することで、心と体のバランスを崩し、さらなる問題を引き起こすこともあるため、専門的な治療が必要です。

 第2節.

親子関係の過剰なストレス:解離と心身の崩壊


親子関係において、子どもが親に言いたいことを言えず、暴力を振るわれたり、引きずり回されたり、無視されるなどの虐待を受け続けると、ストレスが限界を超え、パニック状態に陥ることがあります。このような状況では、子どもは混乱し、スイッチが切れたように意識が途絶える「解離」が生じます。親からの虐待が激しい場合、子どもは恐怖に怯える自分、防衛的に振る舞う自分、そして愛着を求める自分というように、心が分裂してしまうことがあります。

 

例えば、子どもが親に見捨てられる体験をし、親の愛情を取り戻す手段が完全に失われたと感じると、不安や恐怖、焦燥感、無力感、絶望感に押しつぶされ、強烈な感情を抱きます。そうしたとき、子どもは泣き叫びながら、胸の圧迫感や視界が真っ白になる感覚、手足の痺れといった身体的症状を伴い、「この世の終わり」を体験するかのような崩壊を感じることがあります。

 

子どもは親子関係において、常に見捨てられる不安や愛情を求める気持ち、そしてその関係から逃げたい気持ちの間で葛藤します。親の愛情を得たいという願望と、虐待から逃れたいという気持ちが激しくぶつかり合い、その結果、心身は過度の緊張状態に陥ります。このような状況が長期化すると、過剰な覚醒状態(恐怖や戦う・逃げる反応)を抑制しようとし、背側迷走神経が過剰に働き、凍りつきや機能停止状態に至ることがあります。

 

こうして、解離性障害や原因不明の身体症状、慢性疾患など、さまざまな精神的・身体的な問題が生じるリスクが高まるのです。

 第3節.

人格交代の代償:記憶の断片化と社会的責任の狭間で


特定不能の解離性障害や解離性同一性障害を抱える人々は、非常に厳しい現実に直面しています。その大きな理由の一つは、自分の記憶がない間に、異なる人格が活動することがあるからです。異なる人格が何をしていたかについては、人格同士で記憶を共有できない場合があり、その場合は第三者に尋ねなければ自分の行動を知ることができません。

 

さらに、他の人格が引き起こしたトラブルに対しても、本人が社会的責任を負わざるを得ないことが多く、こうした現実が彼らの人生を一層複雑にしています。たとえば、別の人格が犯罪や問題行動を起こしても、それが自分の問題ではないと証明する手段がないため、自分がその結果を受け入れざるを得ない状況が生まれてしまうのです。このような課題が、解離性障害を抱える人々にとって大きな精神的負担となっている現状です。

 

1.解離性同一性障害:記憶の欠落がもたらす混乱と社会的影響

 

解離性同一性障害や解離性障害を持つ人々は、自分の知らない間に様々なトラブルを引き起こすことがあります。たとえば、警察の世話になったり、体に傷をつけたり、家族や友人と金銭トラブルを起こしたり、援助交際や一夜限りの関係を持ったりすることもあります。また、恋人に怒りをぶつけたり、大切なものを壊したり、高価な商品を購入したりすることもあります。時には、人前で幼児のような振る舞いを見せることもあります。

 

本人としては、こうした行動にまつわる記憶が欠落していることが多く、特にトラブルを起こした瞬間や子ども返りしたときなど、重要な記憶が抜け落ちてしまいます。加えて、被害者としての都合の良い記憶しか残らない場合、自分が加害者となったことを自覚できないこともあります。このような状況では、パートナーとのトラブルが頻発し、最悪の場合には離婚や裁判へと発展することが少なくありません。

 

また、家庭や学校、職場で問題行動を起こすたびに、周囲から奇異な目で見られ、孤立していくこともあります。主人格や解離性障害を抱える人は、暴言を浴びせられることが多く、その結果、口を閉ざし、無表情になりがちです。さらに、過去のトラウマがフラッシュバックや悪夢として蘇り、次第に被害妄想へと変わっていくこともあります。

 

そのため、こうした人々は他人の目を過剰に気にし、周囲に合わせて自分を隠すようになります。自分の本音や本当にやりたいことに意識を向ける余裕がなくなり、周囲を喜ばせることで安心感を得ようとしますが、常に緊張状態に置かれてしまうのです。

 

2.人格の分離:逃れられない過酷な環境がもたらすメカニズム

 

人格の解離は、幼少期に逃げられない過酷な環境に身を置かれた際に生じることが多いです。恐怖に耐えきれず、心と身体が分離することで、自己を保つために人格が分裂してしまうのです。たとえば、虐待や激しい暴力によって心身が押さえつけられたり、衝撃的な医療体験や悲惨な事件に巻き込まれた際に、痛みや恐怖で身体が固まり、機能が停止してしまいます。その結果、頭の中は処理の限界を迎え、身体は脱力して崩れ落ち、動けなくなります。このような状態が続くと、通常の人間の反応が妨げられ、やがて人格の一部が分離し、自律的な活動を始めることで新たな人格が形成されます。

 

分かれた人格は、自律的に発展することで、もとの意識がそれを認識できなくなります。強い意志を持った人格ほど独自に行動し、独立した存在として成長していきます。こうした状態に陥った人は、1つの身体に2つの魂と2つの記憶を持つような感覚にとらわれることがあります。内面に両極的な存在が共存しているかのような感覚や、どちらが本当の自分かわからなくなる混乱を引き起こすこともあります。

 

解離の概念を提唱したフランスの心理学者ピエール・ジャネは、次のように述べています。「脳内のすべての心理的現象がひとつの統一された知覚にまとまるわけではありません。ある部分は感覚や映像として独立したまま残り、他の部分は大体ひとまとまりとなって、新しい人格システムを作り上げます。この2つの人格は単に交代して存在するわけではなく、同じ身体の中で共存できるのです。」ジャネのこの理論は、解離性障害を理解する上で非常に重要な示唆を与えてくれます。

 

人格が分離してしまうことは、心が耐えきれない状況に直面した際に生じる防衛反応であり、その結果、自分という存在が分裂し、複数の人格が共存するようになるのです。この現象は、非常に複雑でありながらも、過酷な環境に適応するための心の自然な仕組みといえるでしょう。

 第4節.

解離性同一性障害の原因


解離性同一性障害(DID)は、かつて「多重人格障害」と呼ばれていた精神疾患で、同一人物の体内に複数の人格が存在し、状況や環境の変化に応じてそれらの人格が交代するのが特徴です。この障害を抱える人々は、幼少期に強い外傷体験を受けていることが多く、早期のトラウマがきっかけで、日常を生き抜くためにさまざまな人格が分化していきます。たとえば、トラウマを代わりに背負う「子どもの人格」、自分を守ろうとする「攻撃的な人格」、日常生活をこなす「機能的な人格」などがその例です。

 

1.解離性同一性障害の発症要因

 

この障害の原因を考える際に、いくつかの重要な要素が浮かび上がります。まず、一つ目の要因は、生まれつき解離しやすい特性を持つ人々です。感覚が過敏で、環境や感情に強く影響されやすいHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)の傾向がある人や、神経が繊細でストレスに対して凍りつく反応を示しやすい人々は、解離性障害に陥りやすい傾向があります。

 

二つ目の要因は、発達初期におけるトラウマや、母子関係の問題、生活上のストレスです。特に、幼少期に経験した虐待や身体的・心理的な外傷がDIDの発症リスクを高めます。神経系が過度に繊細で、自律神経の調整がうまくできない場合、原因不明の身体症状に苦しむことが多く、そこから不安やパニック、対人恐怖、環境に対する過敏さが慢性化します。こうした状態が続くことで、離人症や解離性健忘、現実感の喪失、人格の交代、さらには幻覚といった重篤な解離症状へと進行することがあります。

 

2.Kluftの4因子説


解離性同一性障害の発症に関して、心理学者フランク・Kluftは「4因子説」を提唱しています。彼によれば、DID発症の要因は以下の通りです。

  1. 高い被暗示性:感受性が強く、外部からの影響を受けやすい性質を持つこと。
  2. 幼児期の外傷体験:性的虐待や家庭内暴力など、幼少期に心的外傷を経験すること。
  3. 防衛反応としての解離:外傷から逃れるために、解離を防衛機制として用い、それが多重人格形成の基盤となること。
  4. 不適切な養育態度:親が子どもを適切に支えられず、DIDを予防するための養育態度を取らなかったこと。

これらの要素が重なることで、解離性同一性障害が発症しやすくなるとされています。人格の分裂は、外部の脅威から心を守るための防衛反応として始まりますが、次第にその分裂が固定化し、異なる人格がそれぞれ独立して成長することで、DIDが形成されます。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室 

論考 井上陽平

  

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