トラウマを一度経験すると、その後も再び被害を受けやすくなるという現象が報告されています。特にレイプの被害者は、再び同様の被害に遭うリスクが高いことが知られています。性暴力被害を経験した人は、加害者と同じ性別の人に対して極度の嫌悪感を抱くことが多く、近づかれるだけで凍りついてしまい、体が震えるなど、強い恐怖を感じます。これにより、自分を脅かす存在と感じてしまい、トラウマの再演(同じような被害が繰り返される状況)が起こりやすくなるのです。
特に、最も悲惨なケースでは、幼少期に性的虐待や性暴力を受けた人々が、その時の記憶を無意識に切り離してしまうことがあり、結果として「解離性同一性障害」や「複雑性PTSD」、「境界性パーソナリティ障害」、「統合失調症」といった深刻な精神的な症状を抱えることがよくあります。こうした疾患を持つ人々は、幼少期の痛みや恐怖を処理できず、再び同様の被害に遭うリスクが高まることがあります。
彼らは無意識のうちに危険な状況に引き寄せられ、同じようなトラウマを何度も再体験してしまうことが少なくありません。これは、被害者自身が過去の傷を抱えたまま生きているため、再び加害者に狙われやすい状態になっているためです。
特に、子どもの頃に性的暴力を受けると、恐怖と痛みによって身体は凍りつき、頭は真っ白になり、自分に何が起きているのかさえ理解できない状態に陥ります。この極限の恐怖の中で、心と身体は分離し、自分自身でないような感覚に陥り、まるで他人が犠牲者となっているかのような錯覚にとらわれます。心は現実から逃避し、身体は無意識に加害者の指示に従うようになります。
加害者の圧力や説得が続くと、抵抗しても命の危険にさらされるかもしれないという恐怖がさらに深まり、身体はその支配下に完全に置かれます。その結果、被害者は恐怖に凍りつき、加害者の求めに応じる形で動いてしまうのです。このような状況下では、被害者は自らの意思で動けなくなり、心と身体が別々に反応するようになります。この経験は、心と身体に深い傷を残し、長期間にわたって影響を及ぼします。
性暴力の被害を受けた結果、その人格の一部が犠牲者となり、性的放縦人格へと変わることがあります。この人格は、愛のない性行為を繰り返し、援助交際や性風俗で働くことで生き延びようとします。彼らは、自分の裸体や自慰動画を他者に送ったり、酒場や匿名の掲示板を通じて自らを傷つけるような行動をとります。性的放縦人格は、性関係以外では自分を見出せず、異性を誘惑したり、不特定多数と性行為を重ねたりすることで、心ない操り人形のように振る舞います。
このような行動は、主人格に大きな苦痛をもたらします。管理者人格(守護者人格)は、性的放縦人格の暴走を食い止めようと努力しますが、性的放縦人格は自動的に身体的な反応を引き起こすことが多く、制御が困難です。さらに、その背後には、迫害者人格が存在しており、過去の痛みや苦しみを主人格に対して罰を与える形で繰り返します。迫害者人格は、犠牲者となった人格と結託し、不条理な苦しみを与えた人間に対して復讐心を抱き、主人格を責め続けます。彼らは、主人格がその苦しみに耐えられず死ぬまで、同じ行動を繰り返すという強い意志を持ち続けるのです。
このような人格分裂の根底には、深い怒りや復讐心があり、犠牲者となった人格の痛みを覆い隠すために、過度な性的行為や自己破壊的な行動が繰り返されます。これは、性暴力による心の傷がどれほど深刻であり、人格そのものを分裂させるほどの影響を与えることを示しています。
レイプが仕組まれた状況下で、主人格がふと自分に戻った瞬間、目の前にいる見知らぬ相手を見て恐怖に包まれます。その瞬間、体は凍りつき、声を出すことも動くこともできず、抵抗の手段が奪われます。性的行為はただ苦痛でしかなく、被害者は意識が朦朧とし、次第に身体から心が切り離されていくような感覚を覚えます。こうして、トラウマにより心と体がバラバラに引き裂かれた後、被害者は泣きながらシャワーを浴び、自分に起きたことを否応なく受け入れなければならない現実に絶望します。
性暴力の被害は、繰り返し再演されることがあります。世間ではあまり知られていませんが、被害者の中の
「別の自分」が、無意識のうちにレイプを望んでいるかのように振る舞うためです。その結果、周囲からは性的同意があったと見なされ、事件として扱われることはほとんどありません。被害者はこの苦しみを抱えながら、誰にも言えず泣き寝入りするしかなく、生きた心地がしないまま、自死を望むほどの絶望に追い込まれます。
痛ましいケースでは、性暴力を受けた際の本来の人格がどこか遠くへ逃げてしまい、心と体が分断され、身体が自分のものではなくなります。被害者は、まるで別の誰かが自分の日常を過ごしているかのような感覚に陥り、自分とはまったく異なる性格の「もう一人の自分」が、生活を支配し、身体を乗っ取ってしまいます。この状態では、被害者は自己の一部を失い、現実世界での生き方を見つけられなくなるのです。
性暴力によるトラウマを抱える人の中には、慢性的不動状態に陥りやすいケースがあります。この状態では、危機的な場面に直面しても、恐怖と麻痺のために交感神経が働かず、声を出すことや手足を動かすことができなくなり、自分を守るための行動が取れません。通常であれば人は攻撃を受けると反撃したり逃げたりしますが、慢性的不動状態の人は危険に対して適切な反応ができず、身体が動かなくなり、精神的には解離や離人の状態に陥ります。これにより、何をされているのかさえも分からなくなり、再び被害を受けやすくなるのです。
性暴力によるトラウマを負った人に見られるもう一つの特徴は、心と体が分離してしまうことです。痛みや恐怖から逃れるために、心は身体から切り離され、頭と体が分断された状態に陥ります。トラウマが身体の内部に閉じ込められることで、特に性器に凍りつきやムズムズといった感覚が現れ、性衝動を抑えられなくなることがあります。このため、行きずりのセックスや不特定多数の相手との性関係に走り、性化行動に陥ることが少なくありません。
また、身体が思うように動かなくなってしまう影響から、自分の体の反応をコントロールするために、意図的に複数の人と性関係を持つような行動に走ることもあります。これらの行動は、トラウマを抱えた被害者が自分を取り戻そうとする苦しい試みでもあり、その裏には深い心の傷と、自己コントロールの喪失感が潜んでいます。
性的虐待や暴力の被害を受けた人が、なぜ再び同じような被害に遭うのか、そのメカニズムには深い心理的背景があります。白川美也子の著書『赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア』を基にすると、性的虐待を受けた人が援助交際や性風俗に従事するなど、自らをさらに傷つける行動を繰り返すことがしばしば見られます。DV被害者が再び暴力的なパートナーに出会い、性被害者が繰り返し痴漢に遭うという現象も決して珍しいことではありません。外から見れば「なぜこの人はこんなにも被害を受け続けるのだろう?」と思えるような出来事が、彼らの人生に何度も繰り返されるのです。
このような再被害の背景には、いくつかの心理的要因が考えられます。
① 幼い頃に起きたことを無意識のうちに再現し、自分自身でその記憶や感覚を確認しようとしている可能性があります。
② 相手が好意を持った瞬間、過去の体験が呼び起こされ、自動的に性的な反応を示してしまう場合があります。
③ 自傷行為のように、無意識のうちに自分をさらに傷つけることで、汚れた自分を確認しようとしているのかもしれません。
④ 「どうせ男は性欲と金しか求めない」と復讐心を抱き、相手から搾取しようとしている可能性もあります。
⑤ 加害者に対する怒りや憎しみから、加害者を象徴する相手に復讐を果たそうとしていることも考えられます。
これらの行動を繰り返すたびに、被害者の中で「汚れている自分」「価値がない自分」といった自己嫌悪や恥辱感(スティグマ)がどんどん強まっていきます。自己評価が低くなるほど、再び被害に遭いやすくなり、負の連鎖が続くのです。
性被害に遭った人は、周囲のサポートに恵まれると、徐々に回復に向かう場合もあります。しかし、何度も同じ加害者から性暴力を受け続けるうちに、被害者は身体が麻痺し、恐怖や痛みを感じなくなり、感情が凍りついてしまいます。この状態に陥ると、まるで生きながらにして魂が死んでしまったかのように、何事もなかったかのように日常を送るようになります。
こうした性暴力の継続的な被害は、被害者に深い精神的な傷を負わせ、心が壊れてしまうことがあります。この現象は「魂の殺人」とも呼ばれ、被害者が自己の一部を失い、感情や意志が乖離してしまうのです。被害者は、まるで自分ではない誰かが日常生活を送っているかのような感覚に陥り、自分の存在感や現実感を失ってしまいます。
性暴力被害者の中には、「今の私は本当の私じゃない」と感じながら生活している人がいます。心の深い部分で恐怖症を抱えている本当の自分は、自分の内側にある暗い穴に閉じこもり、泣き続けているか、何も言えずにじっとしている状態です。その結果、心と体が分断され、まるで自分自身がバラバラになっているかのように感じます。
一方で、被害に遭ったという自覚がなく、自己感覚が喪失しているため、日常生活を何事もないかのように過ごす部分もあります。こうした部分は、表面的には「正常」に見えるため、周囲からは気づかれにくいですが、実際には痛みの記憶が無意識の領域に押し込まれているのです。そのため、被害者自身も痛みや恐怖を直視できないまま、心の奥に押し込めたまま生活を続けてしまいます。
このような状態は、表面的には落ち着いた日常を送っているように見えても、内面的には深い孤立感や不安が存在し、自己とのつながりが断たれてしまっています。
毎晩、養育者から性的虐待を受けてきた人は、大人になってからも、その恐怖と苦痛が夜ごとに蘇ります。嫌な記憶が襲い、身体は硬直し、神経が痛むのです。この過程では、体内のより原始的な神経が働き、過呼吸や胸の痛み、吐き気、節々の痛みを伴い、声はか細く、すすり泣きながら身体が凍りつくような感覚に陥ります。さらに、その状態から逃れられず、心は過去の子ども時代に退行していき、当時の加害者に支配されていた時の感覚が再現され、身体が落ち着かなくなり、発作が起こります。
身体は凍りつき、離人感が強まり、全身が震え始め、無意識のうちに身体が自分の意志とは関係なく動いてしまいます。結果として、眠れない夜が続き、心身が休まらない日々を過ごすことになります。特に、虐待を受けた子どもの部分は、毎晩加害者の足音に怯え、警戒態勢を解くことができず、凍りついたまま身動きが取れません。
このような状態に陥ると、大人としての自分が内なる子どもの部分の痛みに気づき、救い出せるかどうかという大きな課題を抱えることになります。この過程はとても困難で、虐待の影響を受けた部分と向き合うことが避けられないため、心の中で苦しむ自分を癒すための支援やケアが必要となります。
性暴力被害者は、身体と心に深い傷を負い、その影響は生活全般に及びます。たとえ完全な虚脱状態に至らなくても、被害者は加害者と同じ性別の人に対して強い嫌悪感や恐怖症を抱くことが多く、その結果、心臓が縮まるような感覚や頭がバラバラになるような混乱を感じることもあります。こうした心身の反応は、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
フラッシュバックやパニック障害、睡眠障害、過呼吸、トラウマの再演、過覚醒、解離症状、妄想観念、離人症など、多くの症状が同時に現れることもあります。これにより、対人恐怖や視線恐怖、身体的な不調が引き起こされ、特に悪夢や不眠症が被害者の心身に重くのしかかります。日常生活では、電車や人混みといった公共の場所や移動手段を避けるようになり、外に出ること自体が大きな困難に感じられることも少なくありません。
フラッシュバックや悪夢は、性暴力の被害者にとって、過去の恐怖と苦痛を再び強烈に体験させる辛い症状です。被害当時の記憶が頭の中で何度も繰り返され、強烈な頭痛、激しい動悸、吐き気、身体の震え、過剰な発汗、腹痛などの身体症状が次々に現れます。さらに、過覚醒状態では常に周囲に危険を感じ、警戒し続けなければならず、心が休まることがなくなります。時には全身が凍りついたように動けなくなり、破綻への恐怖に押しつぶされそうな感覚に襲われることもあります。また、加害者と同じ性別の人を見かけたり、視線を感じたりするだけで身体が緊張し、動けなくなることも多くあります。
解離症状やパニックが起こると、過度の緊張と恐怖で交感神経が過剰に働き、同時に背側迷走神経が作用して体が凍りつきます。この状態では呼吸が浅くなり、言葉が出づらくなるため、コミュニケーションが困難になります。顔色は青白くなり、めまいや吐き気、腹痛が続き、まるで自分の体が自分の支配下にないかのような感覚に陥ります。さらに解離症状が進むと、自分の感情や体験から切り離され、現実とのつながりが薄れ、自己の感覚を失うこともあります。これらの心身の混乱は、日常生活に大きな影響を与え、被害者の回復を困難にする要因となります。
これにより、被害者は外部からの刺激に対して非常に敏感になり、現実から孤立した状態に陥ることがあります。恐怖や不安に支配された生活は、外出や他者との接触が困難となり、閉ざされた世界に取り残されるような感覚を抱くこともあるのです。
性暴力の被害を受けた人々は、心と身体に深く刻まれたトラウマの影響を長期間にわたり抱え続けます。自分を守ろうとして加害者と戦った経験や、痛みに凍りついた記憶は、いまだに身体に強いエネルギーとして残り、生々しい身体感覚として甦ることがあります。こうした過剰なエネルギーが解消されない限り、被害者は日々の生活の中で酷い恐怖や不安に苛まれ続け、心が休まることはありません。その結果、じっとしていられなくなり、さまざまな不適応行動をとるようになります。恋愛、過食、セックス、暴力、アルコール、買い物、薬物、ギャンブル、攻撃的な行動や自傷行為などに走ることが多く、こうした行動は自己破壊的であることが少なくありません。
特に性被害を受けた人々は、自分の身体に対して奇妙な感覚を抱くことがしばしばあります。身体が「汚れている」と感じ、強い否定感や敵意を持つようになります。その結果、身体を破壊したい、捨て去りたい、あるいは新しい身体に生まれ変わりたいと願うことさえあります。このような感覚は、被害者が自分自身を大切にすることを困難にし、さらに深い苦しみへと追いやります。
性暴力を経験した被害者は、心と身体の深い部分でトラウマを抱えながら生きています。特に、幼少期から性暴力の被害を受け、その記憶を無意識に切り離してしまった場合、心の一部が解離してしまうことがあります。解離した部分では、被害者が当時の出来事を思い出すたびに、恐怖、無力感、嫌悪感、絶望感が浮かび上がるだけでなく、加害者の要求に応じるように性的に興奮してしまう自分も感じることがあるのです。
その結果、被害者は自分の中で、怯えて泣いている自分、怒りに満ちた自分、性的に興奮してしまう自分など、複数の感情や状態を同時に抱え、アイデンティティが大きく揺さぶられます。普段は何も感じないほど真面目な性格であるにもかかわらず、内側ではこうした複雑な感情が交錯しているため、被害者は自分が誰であるかという根本的な自己認識を見失ってしまいます。
さらに、解離したトラウマが引き起こすフラッシュバックは、性に関連する思考や空想を、意志に反して繰り返し浮かび上がらせます。これにより、被害者は外出時にも過剰な警戒心を持つようになり、周囲の人々に対して異常に敏感になります。歩いている人々の顔や性器に意識が集中してしまい、その反応に自分自身が混乱し、気分が悪くなることもしばしばです。
また、被害者は加害者と同じ性別の人に対して不合理なほどの関心を抱いてしまうことがあります。無意識のうちに性関係を望んでいるのではないかと誤解し、そんな自分を嫌悪したり罪悪感に苛まれたりします。加害者に似た人物を危険だと認識していながらも、自分の今後のためにその人物を分析しようと何度も接近することがあり、結果としてセクハラや性暴力の再被害に遭う可能性が高まります。
性暴力の被害を受けると、被害者は心と身体に深刻な影響を受け、性的な興奮や衝動に対して倒錯的な反応を示すことがあります。これは、繰り返される強い空想や衝動、行動として現れ、被害者の心に大きな苦痛をもたらすだけでなく、日常生活にも大きな支障をきたします。こうした倒錯した反応から、性欲が完全に失われ不感症になる人もいれば、逆に性欲が過剰に高まり、セックス依存症に陥る人もいます。さらに、両極端の性欲が交互に現れる人もおり、自分の恋愛対象が男性なのか女性なのかすら分からなくなったり、危険で不健全な対象に対して好意を抱いたりすることがあります。
性暴力被害者の多くは、特に男性に対して恐怖感が強まり、セックスを避けるようになります。たとえば、愛する人に触れられたりキスをされても、何も感じられず、全身が凍りついたように反応しなくなることがあります。触れようとする相手の手を反射的に振り払ったり、身体に触れられること自体が不快で、落ち着かなくなることもあります。このような反応は、身体に痛みを引き起こし、性的な不感症を引き起こすだけでなく、夫婦や恋人関係にも悪影響を及ぼします。
また、被害者が抱える怒りや攻撃性は、加害者への反撃を意識せずに、自分自身の内面で成長していくことがあります。この攻撃性は、家族や恋人、友人、さらには医療や警察関係者との間でトラブルを引き起こしやすくなり、結果として被害者自身が二次的な被害を受け、さらに人間関係が崩れていくことも少なくありません。
PTSDや解離症状で苦しむ人々は、フラッシュバックや過覚醒、凍りつき、虚脱感、パニック、そして無力感に悩まされます。これらの症状は、外部の様々な刺激によって引き起こされるため、日常生活を送ることが困難になります。長期にわたって心身の不調に苛まれるうちに、この世界は生き地獄のように感じられ、やがて絶望の中で自殺を考えることも少なくありません。また、加害者に対して強い怒りや殺意を抱くこともあります。一方で、心の奥底では孤独に涙を流し、理想化された対象に癒しを求める幻想に浸り、現実から逃避することもあります。
性被害を受けた後、性に対して歪んだ考えを持つようになる人もいます。セックス依存症に陥る理由は様々で、愛されたいという渇望から、過剰な性欲のコントロールが効かなくなる場合もあれば、自分を傷つけて心の痛みを麻痺させるために繰り返すケースもあります。服従させられた経験から主体性を取り戻したいという欲求や、好奇心から試してみたいという感情、さらには親への復讐心など、依存症に陥る背景には多様な理由が存在します。
これらの行動は、自己肯定感の低さや深いストレスからの逃避として現れることが多く、被害者が自分自身を取り戻すための一つの試みであるとも言えるでしょう。性行為を通じて自分の体を支配しようとする人もいれば、人との触れ合いを通して人間らしさを取り戻そうとする人もいます。しかし、こうした行動がさらに心身の混乱を深め、依存症へと繋がるリスクが高まります。
性暴力の被害を受け、深いトラウマを抱えた人々は、他者からの心ない言葉や態度に繰り返し傷ついてきました。被害者の話を聞く際には、その感情に一喜一憂するのではなく、常に優しさと包容力を持って接することが重要です。彼らが安心して話せる環境を提供し、批判や評価を避け、ただ傾聴することが求められます。
さらに、被害者が持つ良い部分を見つけ、それを伸ばすサポートをすることが大切です。トラウマに対処しながらも、自分自身の能力や可能性を再発見し、前向きに進めるように手助けしてあげましょう。信頼関係を築くことは時間がかかりますが、ゆっくりと着実に進めていくことが、被害者にとって心の回復に繋がります。
支援する側は、常に高い意識を持ち、被害者が自分自身を信じられるように、信頼の絆を丁寧に育てていくことが求められます。焦らず、じっくりと向き合いながら、被害者の力となるような支援を心掛けましょう。
当相談室では、性被害のトラウマを持つ方への治療として、ソマティックエクスペリエンス(身体志向アプローチ)と、本音や感情を表現するカタルシス療法の併用を推奨しています。従来の対話中心の心理療法では、心と身体に深く作用せず、表面的なアプローチにとどまりがちでした。しかし、ソマティックエクスペリエンスをはじめとする身体志向のアプローチは、運動やイメージ、演劇、音楽、身体感覚を通じて行われるため、被害者が自らの性被害体験を直接語らなくても、治療が可能です。
このアプローチは、心身に凍りついたトラウマを解放する際、膨大なエネルギーが解き放たれ、時間や空間の感覚が混乱することがあります。その結果、全身に震えや揺れが生じたり、熱や寒気、吐き気、涙、鼻水などの身体的反応が出ることもあります。時には手足の不随意な動きが激しくなり、これに驚くこともあるかもしれませんが、これらの反応はトラウマの解放過程の一部であり、身体が徐々に回復へと向かっている証拠です。
この治療法は、従来の方法では届かなかった深いレベルの回復を目指し、トラウマを身体から解放していくものです。トラウマを抱える方々が、心と体のバランスを取り戻し、自分自身と向き合いながら前進できる道を提供するため、時間をかけてじっくりと取り組むことが大切です。
治療においては、脳(意識)を使いながら、自分の身体を観察し、凍りついたトラウマを少しずつ解きほぐすことが重要です。例えば、みぞおちに感じる大きな固まりを取り除くことができれば、胸の痛みが軽減し、喉や気管支の詰まりが解消され、肺の凍りつきも和らいでいきます。これにより、呼吸が自然と楽になっていきます。
さらに、肩や腕を自由に動かすことで、四肢の力が回復していくことも期待できます。特に、体をダイナミックに動かすことや、胸のあたりを優しくトントンする動作、顎を引いて口の開け閉めを行うなどのシンプルな動きが、身体のモードを切り替え、回復を促します。これらの身体的なアプローチを取り入れることで、自然と体のバランスが整い、心身のリラクゼーションが深まる可能性があります。
トラウマ治療においては、体と意識が密接に連動しているため、適切な動きや触れ方によって身体が持つ自然な治癒力が引き出され、回復が進むのです。
トラウマ治療では、地獄のような苦しい記憶と天国のような安らぎのイメージを交互に思い浮かべることで、安全な場所で息を吹き返す感覚が得られます。この過程を通じて、身体に溜まった過剰なエネルギーが徐々に解放され、凍りついた緊張が和らいでいきます。その結果、心身は徐々に本来の自分に近い状態へと戻り、身体的な症状や睡眠障害、ネガティブな思考も改善されていきます。さらには、人恋しさや性欲など、生きる上で自然な感情も再び湧き上がるようになります。
しかし、1回の治療で完全に治ることはまれです。治療後に一時的に状態が良くなったとしても、現実世界に再び触れたときに元の状態に戻ってしまうことがあります。そのため、治療は短期間ではなく、1〜2年から長ければ7〜8年にわたる長期的なものとなる可能性が高いのです。できるだけ早期に治療を開始することが重要で、トラウマケアを怠ると、慢性的な凍りつきや虚脱状態に陥るリスクが高まります。
その結果、解離や離人感、過覚醒、不眠、重度のうつ、慢性的な痛みや疲労、原因不明の身体症状、さらに精神疾患や自己免疫疾患といった多岐にわたる症状が深刻化します。
性虐待などの耐えがたい痛みを抱えた被害者が、身体に焦点を当てた治療を受ける際、しばしば逃走反応が引き起こされます。これは、手足が無意識に激しく動き、外科手術に匹敵するような強烈な身体反応を伴うため、患者はその反応を他者に見せることを恐れ、治療を中断してしまう可能性が高まります。この恐怖は「自分がどうにかなってしまうのではないか」という不安からも生じるものです。
さらに、性暴力の被害者は自分の身体に対する強い不快感や違和感を抱くことが多く、しばしば自分の身体が自分のものではないように感じます。このため、身体に注意を向けることに対して強い反発を示し、自分の身体を他人に触れられること、さらには自分自身が触れることにも嫌悪感を抱く場合があります。こうした感覚は、身体的治療への抵抗を強め、回復への道を一層難しくしています。
このような心理的・身体的反応は、トラウマ治療において克服すべき大きな障壁であり、治療者は被害者のペースに合わせた慎重な対応が求められます。
治療が進むにつれて、心(頭)と身体が少しずつ合致し始めますが、その過程で過去の記憶が蘇り、フラッシュバックや怒り、不快感が生じ、日常生活が難しくなることがあります。特に、大人としての自分と、過去に取り残された子どもの自分との間で混乱が生じ、現在と過去が入り混じる感覚に陥ることもあります。この変化に対する恐れから、治療が停滞したり中断してしまうことが多いのです。
身体に焦点を当てたアプローチは、過去の痛みや感情を直接的に呼び覚ますため、慎重に進める必要があります。特に初期段階では、安心・安全な環境作りから始めて、誰にも言えなかった本音や抑え込んでいた感情を少しずつ表現し、心と身体を軽くしていくことが重要です。治療のペースは急ぐことなく、じっくりと進め、環境とのバランスを取りながら自分自身と向き合うことが求められます。トラウマ治療は長期的なプロセスであり、時間をかけて取り組むことが回復への鍵となります。
現状では、性被害者に対する十分なケアが行き届いていないのが問題です。ワンストップセンター、警察、医療、精神科医、心理士、看護師といった専門家が、トラウマや解離、脳機能、神経系、身体症状についての理解が不足していることが多く、広く浅い知識で対応されるために、性被害者は心身の痛みに十分に配慮されないことが少なくありません。その結果、被害者は二次被害に遭い、心の傷がさらに深まることがあります。
二次被害がもたらす影響は深刻で、複雑性PTSDや身体機能の低下、神経系や免疫系、ホルモンバランスへの悪影響が生じる可能性があります。また、二次被害による人間不信や孤立感が増大し、実際の性被害の傷よりも心の痛みが大きくなることさえあります。さらに、被害者が適切な支援を受けられない場合、症状が悪化し、治療や支援に対する失望感が増し、悪循環に陥る危険があります。
そのため、性被害や性虐待を受けた人には、身体と心の両方に配慮した繊細なケアが不可欠です。適切な保護を提供し、まずはどのような治療が行われるのか、被害者にしっかりと説明を行い、信頼できる安全な環境を整えることが重要です。信頼関係を築き、安心できる空間で、ゆっくりと回復への道を歩んでいくための支援が求められます。
参考文献
白川美也子:『赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア』アスク・ヒューマン・ケア 2016年
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平
トラウマを抱えている人は、自分の体の麻痺を解いていき、現実の絶え間ない変化において、体が感じていることをただ感じていくことと、自分の筋肉の伸び縮みを感じながら、仲良くなることから始めましょう。
凍りつきの美を維持するのは、無理をせず、周りを完璧に固めて、静かな状態で、凍りついて眠ります。顔の表情や目、鼻、口、喉の筋肉が引き締まり、美しさが氷のなかで凝縮された結晶となり保存されています。
障害となる解離症状では、生活上の不安や恐怖、痛みで神経が張りつめており、身体は収縮して、凍りつきや死んだふり、虚脱化して、背側迷走神経が過剰に働き、脳や身体の機能に制限がかかります。
性暴力被害は心と体を歪ませ、解離やPTSDなど症状に罹ります。障害となる解離症状では、小さい時から、恐ろしい体験を重ねていて、身体・時間感覚、思考、情動がバラバラになっています。
自傷行為は、友達にリストカットを教えてもらうとか、大切な人にかまってもらいたいとか、支配ー服従の人間関係により、トラウマの生物学的メカニズムで起こるなど、自傷行為に至る流れを考察しています。
外傷体験を負うと、生命が脅かされ、尊厳を踏みにじられ、強い衝撃を受けて、心に恐ろしいことが起こり、体や神経が滅茶苦茶になります。トラウマを負った後は、心と体に爆弾を抱えて生きるようになります。