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注意欠陥・多動性障害(ADHD)の特徴: 不注意、衝動性の背景と原因


ADHD(注意欠陥・多動性障害)は、脳の前頭前野における注意や行動の制御がうまく機能しないことで引き起こされます。主な症状として、不注意、多動性(過活動)、衝動性が挙げられます。

  1. 不注意の症状: 些細なことで気が散りやすく、細部のミスが多かったり、一つの作業に集中し続けることが難しい状態です。

  2. 多動(過活動)の症状: 授業中などでじっと席に座っていられず、つい歩き回ってしまったり、絶え間なく話し続けてしまうことがあります。

  3. 衝動性の症状: 自分の話す順番を待つことができず、思いついたことをすぐに口に出してしまったり、話をまとめることができずに結論のないまま話し続けてしまうことが特徴です。

ADHDを持つ人々は、他の診断を併発しやすい傾向があり、双極性障害やうつ病、境界性パーソナリティ障害、PTSDなどと診断されることが少なくありません。また、ADHDと診断されている人の中には、実際には幼少期に大きなトラウマやPTSDを経験しているケースもあります。例えば、性暴力被害者の約9割がADHD的な症状を示すとされており、トラウマがADHDのような症状を引き起こしている可能性も指摘されています。

ADHDの原因


ADHDの原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。遺伝的要因としては、脳や神経回路の繊細さが挙げられ、これが環境要因と相互作用することで、ADHDの症状が顕著になる可能性があります。特に、胎児期や乳児期における侵襲的体験や、成育環境の不良が神経発達に大きな影響を与え、二次的なトラウマが加わることで、さらに発達が阻害されることがあります。

 

環境要因としては、まず胎児が母親の胎内にいる時の環境が非常に重要です。胎児期における子宮内でのストレスや侵襲的処置、手術などが胎児トラウマの原因となることがあります。また、出生時の医療措置、特に低出生体重や早産といった誕生時のトラウマも、ADHDの発症に寄与する可能性があります。

 

さらに、医療現場でのトラウマ、家庭内での虐待や母子間の愛着トラウマ、夫婦間のDV、不慮の事故、化学物質への曝露、学校教育や都市型生活、機能不全家庭といった子どもを取り巻く生活環境が、ADHDの症状を引き起こす要因となり得ます。特に、発達早期にトラウマを経験した子どもや、ひといちばい敏感で感覚過敏な子ども、虐待を受けている子どもは、外部からの刺激に過敏に反応し、ADHDと非常に似た症状を示すことがあります。

 

このように、ADHDの症状は、単一の原因ではなく、複数の遺伝的および環境的要因が複雑に絡み合うことで顕在化していくものです。適切な理解と支援が、症状の管理と改善には欠かせません。

 

注意力や集中力の問題は、脳や体が過剰な警戒状態にあるときに生じやすく、外部からの刺激に敏感に反応しすぎることで、意識があちこちに飛び、感覚が過負荷の状態に陥ることがあります。一方で、逆に感覚を遮断しようとする傾向も見られます。過覚醒や凍りつきの状態では視野が狭まり、低覚醒の状態では、体がぼんやりと感じられ、外の世界も同様にぼやけ、感覚が麻痺してしまいます。その結果、自分の体の感覚に注意を向けることが難しくなり、簡単に気が散ってしまうのです。

 

仕事や学校の授業など、特に疲れている時や気乗りしない時に無理に集中しようとすると、ミスが増え、注意や集中がますます困難になります。さらに、複数のことを同時に行うのが難しくなり、一度に一つのことしか処理できないという状況に陥ることも少なくありません。このように、注意力や集中力の問題は、脳と体の状態がどのように反応しているかに深く関わっており、適切な休息やリラックスが重要であることがわかります。

 

ADHDの人々の多動性や衝動性には、実際には重要な意味があります。彼らは強い自由への欲求を持っており、一方で、何かに拘束される状況に対して深い恐怖を抱いています。心理的あるいは身体的に拘束されると、筋肉が硬直し、身体が凍りつき、まるで屍のように感じることがあります。多動性や衝動性の問題は、学校の授業や集団行動など、自分がやりたくないことを強制される場面や、じっとしていなければならない状況(トラウマ的な不動状態、凍りつき、麻痺、恐慌、崩壊への恐怖が伴う状況)で特に顕著に現れます。こうした状況では、体を揺らしたり、バタバタと動かすことで、自分自身を解放し、気持ちを落ち着けようとするのです。

 

不快な状況が続き、問題解決ができない場合、彼らはますます落ち着きがなくなり、体を動かしたいという強い闘争・逃走反応が生じます。そのような不快な状況では、体に力が入り、筋肉が硬直し、不快感から逃れたくなり、イライラしたり、「もうダメだ」と感じたり、居ても立っても居られなくなることがあります。これに伴い、耳鳴りが生じたり、気が狂いそうな感覚に襲われることもあります。こうした生理的な混乱が続くと、やがてパニックに陥ることを恐れるようになり、その結果、無意識に歩き回ったり、廊下を行ったり来たりする行動が見られるようになるのです。

 

ADHDの知能検査


発達障害の診断を行う際には、WAISやWISCなどの知能検査を通じて知能の偏りを評価し、生活全般を困難にしている症状を問診で詳しく聞き取ることで、総合的に診断を行います。特にADHDの子どもにおいては、視覚優位の傾向が見られることが多く、視覚的に興味を引かれる情報に注意が向きがちです。その結果、物事を忘れやすくなったり、注意が散漫になったりすることがあります。

 

また、ADHDの子どもは環境に対して非常に敏感であり、発達に必要な環境が提供されないと、それに対して強く反応する傾向があります。一方で、作動記憶(ワーキングメモリー)が弱いため、複数の聴覚情報を同時に保持することが難しく、指示を聞き取っても記憶に留めるのが困難なことがあります。

 

さらに、神経発達のパターンは個人差が大きく、同じ発達障害の診断を受けた子どもでも、その体の使い方や運動能力は大きく異なります。中には非常に器用な子どももいれば、手先が不器用で日常生活に支障をきたす子どももいます。このように、一人ひとりの特性に応じたサポートが求められるのです。

ADHDの心理療法


当相談室では、ADHDの治療において、投薬に頼るのではなく、まずは自分の身体に意識を向ける練習を行います。最初に取り組むのは、頭の中で安心感や望ましいイメージを膨らませることです。これにより、体に安心できる感覚を見つけ、心と体をリラックスさせることを目指します。

 

次に、自分の好むイメージや苦手なイメージを意識的に使い分けることで、神経の働きをコントロールし、覚醒度を調整します。これにより、体質を改善し、心身のバランスを整えていきます。さらに、身体への気づきを深めることで、自分の覚醒度や感情を効果的に調節できるスキルを身につけます。最終的には、じっとしていても安心感を感じ、リラックスできる状態を目標とします。

 

体内には大きなエネルギーが滞っていることが多いため、不快な感覚や感情に留まらず、そのエネルギーを適切に放出する練習を繰り返します。このような瞑想を通じて、一人でも安心して落ち着いて過ごせる力を養います。また、自分自身に力があると感じられるようになり、自己肯定感や自己効力感も向上させることを目指します。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平

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