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トラウマ治療のカウンセリング手順


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 第1節.

トラウマ治療のカウンセリング


当相談室では、カウンセリングの時間を90分に設定し、前半は対話を通じたカウンセリング、後半は瞑想を取り入れたセッションを行っています。瞑想では、自然に浮かび上がるイメージや空想を使いながら、身体感覚に焦点を当てます。しかし、イメージする力に不安を感じる方や身体感覚に向き合うことが怖いと感じる方には、瞑想の時間を短縮し、対話を重視する柔軟な対応をしています。

 

瞑想の技法には、ピーター・ラヴィーンのソマティックエクスペリエンスを基盤に、ユング派のアクティブイマジネーションや精神分析の自由連想法、ヴァン・デア・コークのトラウマに対するマインドフルネス、さらに呼吸法やイメージ療法、演劇療法、音楽療法を取り入れています。対話の時間では、信頼関係を築き、安心して自由に話せる環境を提供します。相談者は、自分の思いつくままに感情を吐露し、幼少期の記憶に向き合いながら、自己理解を深めます。

 

1.トラウマ治療のプロセス:心と身体を癒す方法

 

トラウマ治療では、前半で自分の本音や感情に向き合い、これまでの人生や未来について話し合います。日常生活で困難を引き起こしている事柄についても議論し、適切に対処するためのレジリエンスを鍛えていきます。しかし、トラウマ治療は単に話し合いで頭で理解するだけでは十分ではありません。

 

後半では、イメージワークや身体感覚に焦点を当て、筋肉や内臓、皮膚の動きなど体験的なプロセスを重視します。脳(意識)を通じて、無意識下で持続する身体の過緊張や凍りつき、麻痺状態を観察し、トラウマが引き起こす感情や感覚を見つめます。トラウマを抱える人は、外界に対する警戒心や身体の不快感が強く、原始的な神経反応に囚われることがあります。ここでセラピストの支えを借りながら、自分の痛みや恐怖に向き合い、筋肉の緊張を少しずつ解きほぐしていきます。

 

治療の目標は、無意識下で続く身体の凍りつきを解放し、身体と心のバランスを取り戻すことです。この過程では、自己調整力を高めるためのスキルが必要となり、時間をかけて根気強く取り組むことが重要です。身体の変化に気づきを持ちながら、心と体を整えていくことで、トラウマからの回復が進み、日常生活にも良好な治療成果が現れるでしょう。

 

2.性的虐待とトラウマ治療:身体への焦点と心の遊びを取り戻すプロセス

 

性的虐待など、耐えがたいトラウマを抱える人にとって、身体に焦点を当てた治療は非常に難しいことがあります。フラッシュバックが引き起こされ、治療が進まない場合がよく見られます。特に、性的虐待を経験した人にとって、自分の身体を取り戻す作業は困難であり、身体自体が他者や人間関係に対して嫌悪感を抱くことが多いため、その過程で現在の人間関係が壊れるリスクも伴います。

 

このような場合、身体を麻痺させて何も感じなくすることで、トラウマの影響を最小限に抑え、焦りや不安、緊張、不快、怒り、恐怖、嫌悪感などの感情が表に出ることを防ぎ、表面的には正常に見える生活を送ることができます。解離症状を持つ人は、このように感情や身体感覚を切り離すことで、日常生活をこなしてきたのです。

 

しかし、頭(心)と身体が合致すると、抑え込んでいた焦りや恐怖、怒り、不快な感覚が一気に噴出し、圧倒されてしまいます。その結果、動けなくなったり、些細なことで強い怒りを感じたり、生活に支障をきたすことがあります。そのため、身体に焦点を当てた治療が難しい場合は、まずは身体を凍りつかせたまま、離人状態のままで生活を続ける選択肢を模索します。

 

治療のプロセスでは、まず心の遊びや余裕を作るためにイメージワークを中心に進め、心が安全な空間を持ったあとで、徐々に身体に焦点を当てていくことが重要です。

 

3.トラウマ治療:身体感覚を通じて凍りついた過去から解放されるプロセス

 

トラウマ治療の中心は、過去の外傷体験を思い起こし、その瞬間の身体感覚に戻ることで、心と体の凍りつきを解きほぐしていくプロセスです。治療中、恐怖や身震いと向き合いながら、体が再び動き始めることで、慢性的に緊張していた身体が緩みます。トラウマに対するボディセラピーでは、安全な環境で過去の記憶に対する恐怖と向き合いながら、現実の身体感覚に戻る練習をします。これは、身体がかつて経験した恐怖に巻き込まれず、今の安心感を取り戻すためのステップです。

 

最終的な目標は、自分の身体と仲良くなり、過剰に交感神経に支配されることなく、適度な緊張とリラックスの間を行き来できるようにすることです。これにより、脳と体を繋ぐ神経系の働きが変わり、過剰なストレス反応が軽減され、身体が自然にバランスを取り戻すことが可能になります。特に、首や肩、胸、背中などの緊張がほぐれ、手足の力が戻ると、全身に安堵感が広がり、神経のパターンが再び正常に働くようになります。この過程を通じて、交感神経と腹側迷走神経の調和が生まれ、安心して生活に取り組む力が強まっていきます。

 

4.トラウマ治療の進め方:個々の状態に合わせたアプローチ

 

カウンセリングの進め方は、各個人の心身の状態や置かれている環境により大きく異なります。ここでは、短期間でトラウマに焦点を当てたい方のために、目安を記します。最短では、2回目のカウンセリングで心身が不動状態に入り、内部から変化が起こることもあります。このアプローチは、解離や離人感、過覚醒、失感情症、パニック、身体症状などに対して効果が期待できます。

 

ただし、複雑性PTSDや発達障害の傾向があり、慢性的に不動状態にある方の場合、初期段階ではイメージ療法に対して身体が反応しにくく、音や器具を使って身体に振動を伝えるところから始める必要があります。このような場合、少なくとも半年以上、一般的には1年から2年以上の治療期間がかかることが多いです。

 

トラウマ治療は、安心・安全な環境が整い、モチベーションを持ち、恐怖に立ち向かう精神力があれば、継続することで確実に効果が現れます。

 第2節.

初回カウンセリングの進め方


初回カウンセリングでは、相談に至った経緯や主訴、家族関係などを自由にお話しください。思いを言葉にすることで、頭の中が整理され、感情を率直に表現することで心身の浄化にも繋がります。セラピストとの対話を通じて自己理解が深まり、内面的な気づきが生まれるでしょう。

 

また、カウンセリングの中では、少し瞑想を行い、イメージワークを取り入れることもあります。この過程では、身体の内臓感覚や皮膚感覚、筋肉の張り、ボディイメージに注意を向けることを学びます。複雑なトラウマを抱えている人ほど、身体感覚が麻痺していることが多いため、脳を使って自分の身体の感覚や動きを意識することが重要です。

 

トラウマ治療では、闘争・逃走反応を和らげ、無意識下にある身体の凍りつきや虚脱状態から抜け出すことで、レジリエンス(回復力)を強化することができます。しかし、治療中にはこれまで心が隠してきた部分に向き合うため、離人感や非現実感が薄れる一方で、無力感や慢性疲労、身体的な痛み、鬱状態などが表面化することがあります。また、過覚醒状態の人は、警戒や恐怖、不快感、苛立ちなどの感情が顕著になり、身体が過敏になることもあります。

 

このような反応が出た際、生活環境が不安定だと、抑うつ状態や身体の痛みが増幅し、日常生活が困難に感じられることがあるかもしれません。カウンセリング中はリラックスし、心身が軽くなったと感じても、日常生活に戻ると状態が悪化したように感じる場合もあります。このようなケースでは、安心で安全な環境が整っていることが不可欠です。

 

特に、自分に危害を加える人物から逃れることができない状況にある場合、どれほど効果的な治療を行っても、一進一退を繰り返し、治療が進まないことがあります。そのため、トラウマに焦点を当てるだけでなく、環境調整も並行して行うことが大切です。

 第3節.

2〜10回目のカウンセリング過程


2〜10回目のカウンセリングでは、セラピストとの対話を通じて、さらに深い自己理解を進めていきます。生い立ちや家族関係、現在直面している困難な状況について、少しずつ言葉にし、今まで抑えてきた感情や経験を表現していくことで、心の浄化が進みます。これまで言葉にできなかった思いを話すことで、心の重荷が軽くなり、内面的な成長が始まります。

 

トラウマ治療では、過去の外傷的な記憶に触れる必要がある場合、セラピストと共に安全にその記憶を探りながら、現在の自分に与えている影響を理解していきます。瞑想やイメージワークでは、自由に想像を広げ、心の中に豊かな世界を構築します。これは、過去のトラウマによる閉塞感や不安を解消し、心に余裕を持たせるための準備です。天国や地獄のような極端なイメージも使いながら、心の深層にある感情や記憶に触れていきます。

 

身体感覚に焦点を当てたセッションでは、身体の各パーツを丁寧に観察し、動かしたり揉み解したりしながら、自分の身体の状態を再認識します。呼吸法や音楽療法、身体に振動を伝える器具を用いることで、身体に蓄積された麻痺や凍りつきが解け、筋肉の緊張がほぐれていきます。特に、首や肩、胸、顔などの凍りついた部分に焦点を当て、適切にケアを行いながら、安心できる身体の感覚を取り戻していきます。

 

筋肉が弛緩しすぎている人には、空気椅子やスクワット、腕立て伏せなどを使って筋肉を収縮させるエクササイズを取り入れます。これは、筋肉のバランスを整え、全身に力を戻すための重要なステップです。基本的には、緊張している部分を収縮させ、その後に拡張させる漸進的筋弛緩法を行いながら、身体と心の状態を統合させていきます。

 

セラピストのサポートを受けながら、自分の感情や身体反応に向き合い、トラウマに伴う不動状態や解離状態を解消するプロセスは、時間と忍耐を要します。しかし、このステップを一つ一つ進むことで、心身のバランスが整い、日常生活にも大きな変化が現れます。

 

1.トラウマを癒す身体と記憶のセラピー:段階的アプローチと手順

 

トラウマを負った身体と記憶に働きかけるセラピーは、心と体を深く結びつけ、過去の傷を癒すための段階的なプロセスです。以下は、セラピーの手順について、概要を説明します。

 

1.呼吸法:心と体を整える第一歩
まず、深い呼吸を通じてリラックスを促し、心身のバランスを取り戻します。呼吸は自律神経に直接作用するため、ゆっくりとした深呼吸を意識することで、自然に落ち着きを取り戻し、身体全体が安定する感覚を体験します。

 

2.手足の緊張を解きほぐす
次に、手足にどれだけ力が入っているかを確認し、無意識に緊張している部分を意識します。手足の筋肉を収縮させたり、弛緩させたりすることで、緊張状態を把握し、心と体のつながりを感じられるようにします。筋肉を意識的に動かすことで、全身のリラクゼーションを促進します。

 

3.筋肉と皮膚の感覚を観察する
身体の筋肉や皮膚の感覚に注意を向け、そこに溜まった緊張や違和感を感じ取ります。触覚を使いながら、自分の体がどのような状態にあるのかを確認し、緊張している箇所や疲れを感じている部分を優しく解きほぐします。これにより、自己認識が深まります。

 

4.内臓と呼吸器の感覚を整える
内臓や消化器系、気管支に意識を向け、これらの感覚がどのように感じられるかを観察します。トラウマが体内に与える影響を感じ取ることで、内臓の違和感や緊張を解放し、心身のつながりを再確認します。特に、深い呼吸とともに内臓のリズムを感じ、心と体が調和する感覚を大切にします。

 

5.胴体と頭の統合感を意識する
胴体と頭がどのように繋がっているかを感じ取り、全身が一つのユニットとして機能している感覚を意識します。ここでは、身体全体が一体となって動き、心と体の調和が取れていることを感じられるように導きます。この統合感が、安定した心身の状態を築く基盤となります。

 

6.脳と頭の感覚を観察する
脳や頭の感覚に焦点を当て、過去の体験がどのように影響を与えているかを探ります。頭の重さや圧迫感、痛みといった感覚がどのように心的ストレスに関連しているかを理解し、頭部の緊張を緩めることで、心のストレスも軽減していきます。

 

7.音や振動を使った緊張緩和
最後に、音や振動を用いた療法で身体全体にリラクゼーションを促します。音響療法や振動道具を使い、神経系に優しい刺激を与えることで、体内の深い緊張を和らげ、心地よいリラックス状態へ導きます。このプロセスにより、体と神経が深く解放され、心身のバランスが整います。

 

8.身体の麻痺を解きほぐすプロセス
トラウマによって麻痺している感覚や凍りついている身体の部分を優しく解放していきます。感覚が鈍くなった部位を少しずつ目覚めさせ、身体全体の感覚を取り戻すことを目指します。これにより、身体の自然なリズムが回復し、心身の統合が進みます。

 

9.肩や顎のエクササイズ
肩や顎に溜まった緊張やストレスを解消するためのエクササイズを行います。これらの部位は、特にトラウマによる影響を受けやすく、ストレスが蓄積しやすい箇所です。エクササイズを通して、筋肉の緊張を解き、自由な動きを取り戻します。

 

10.全身の緊張を解放しリラックス
全身に溜まった緊張を解きほぐし、深いリラクゼーションへ導きます。身体全体がリラックス状態に入ることで、心身のバランスが整い、リフレッシュされた感覚を得られるようになります。これにより、日常生活でのストレスへの耐性も高まります。

 

11.ヒーリングイメージ療法による癒し
心の中で癒しのイメージを描きながら、身体の痛みや不快感を優しく癒していきます。このイメージ療法は、心と体を深いレベルで結びつけ、全体的な回復を促進します。治癒を象徴するビジュアルを活用することで、心身の再生力を引き出します。

 

12.安心感を深めるイメージ療法
安全で落ち着いたイメージを心に描き、自分が安心できる場所にいる感覚を強化します。この安心感は、セラピー中だけでなく、日常生活にも持ち帰ることができ、心の安定をサポートします。

 

13.インナーチャイルド療法で過去を癒す
内に潜む「インナーチャイルド」と向き合い、過去に未解決の感情やトラウマを解放するプロセスを進めます。幼少期のトラウマを癒すことで、心の奥に閉じ込められていた感情が自由になり、現在の自分をより深く理解できるようになります。

 

14.「向こう側の世界」へのイメージ療法
自分の心の深層にある「向こう側の世界」にアクセスし、内なるトラウマと対峙します。このプロセスを通じて、解放の準備を整え、心の奥底に眠る感情や記憶を徐々に受け入れることで、心身の回復が促されます。

 

15.トラウマ記憶と身体療法
トラウマの記憶と向き合う際、身体に蓄積された緊張や感覚を解放するための療法を行います。身体は過去のトラウマ体験を記憶しているため、これを意識的に解きほぐし、身体と心のバランスを取り戻す作業が行われます。

 

16.不快な感覚の処理とタッピング
トラウマによって引き起こされる不快な感覚や感情を緩和するため、タッピングを使って身体に穏やかな刺激を与えます。特定のポイントを軽く叩くことで、不快な感覚を和らげ、神経系をリラックスさせる手法です。

 

17.地獄のイメージから不動状態に入る
トラウマが引き起こす「地獄のような」強い感情や記憶に向き合い、その不快なイメージが引き起こす不動状態に意識を集中します。セラピストと共に、安全な環境の中でこの不動状態を解きほぐし、心と体が再び動き始めるようサポートしていきます。

 

18.不動状態に意識を向けて抜け出す
不動状態に陥った際、それに気づき、意識を向けることで少しずつ抜け出していきます。この段階では、心と体の繋がりを感じながら、セラピストのサポートを受けて徐々に安全な感覚を取り戻し、自分の身体が守られていると再確認します。

 

19.身体の安心感が持続され、神経ネットワークが改善される
最後に、心身が持つ自己回復力を活用し、身体全体の安心感を持続させます。これにより、神経ネットワークが徐々に改善され、交感神経と副交感神経のバランスが整っていきます。トラウマによる過剰な反応が減少し、身体と心の調和が戻ることで、日常生活の中で安定した状態を維持できるようになります。

 第4節.

カウンセリングを継続していくことで、心と身体を解放する


対話のセッションでは、どうぞご自由にお話しください。セラピストはあなたの過去の外傷体験に寄り添い、恐怖や悲しみ、怒りといった感情を丁寧に汲み取ります。また、生きづらさの原因となる人間関係や思考のパターン、強迫観念などを一緒に探っていきます。言葉にすることで、長年抑えてきた感情や思考が整理され、自分を理解するきっかけとなるでしょう。

 

一方、瞑想のセッションでは、あなたの内なる世界を探る旅が始まります。美しいイメージや恐ろしいイメージが自然に浮かび上がる中で、身体や頭に意識を向け、身体感覚の変化を感じ取ります。これにより、心と体が一体となり、全身で「感じる」という最高の状態を作り上げます。

もし、身体が固まり感覚が鈍くなっていると感じる方には、優しく振動を伝えたり、タッピングを行ったりして、身体を徐々に目覚めさせます。凍りついた部分に意識を向け、そこに閉じ込められた緊張や感情をほぐしていくのです。

 

セッションの後半では、最悪な事態や死に直面するようなギリギリの場面を身体で再現します。あえて絶望的な感覚に身を委ね、身体が動けなくなるような状況を再現することで、閉ざされた心と体を解放するプロセスが始まります。絶望の不動状態を十分に味わった後、身体は震えや熱、不随意運動を通じて新たな体験へと向かいます。これにより、未解決だったトラウマが徐々に解消されていきます。

 

トラウマを抱える人々は、体が硬直して収縮し、あるいは慢性的な虚脱や不動状態に陥り、手足が動かず身体が重く感じることが多いです。こうした人々にとって、セラピーを通じて体と心をつなぎ直し、新しい活力を取り戻すことが可能です。

 第5節.

トラウマ解放:身体と心を一致させ、健康を取り戻す


凍りついたトラウマを解放するためには、まず身体を収縮させ、固まった状態を感じ取ることが重要です。その後、最適な方法で身体を動かしたり、不動状態の感覚に向き合い、恐れずに意識を集中させることで、全身を拡張させて解放へと導きます。

 

脱力を伴うトラウマの場合、身体が収縮すると手足に力が入らなくなり、重たく感じられます。この状態では、身体の筋肉に負荷をかけて動かすことで、再び力がみなぎり、活力が戻ってきます。こうしたセッションを繰り返すことで、心と身体が一致し、身体の中でより安定して生きることができるようになります。

 

収縮と拡張のリズムが正常に戻ると、胸の中心にあった重さが解消され、全身が軽くなり、呼吸が楽になります。身体の緊張がほぐれ、深い呼吸ができるようになると、心身がリラックスし、安心して眠れるようになります。結果として、健康が向上し、人とのコミュニケーションでも緊張がなくなり、人恋しさや思考の明晰さも増して、日常生活がより楽に送れるようになります。

 第6節.

過覚醒状態への対処法:身体と心のバランスを取り戻す


離人感が解消された後の過覚醒への対処について説明します。幼少期から慢性的なトラウマを負っている人は、心と身体が分離し、身体感覚が麻痺することがよくあります。トラウマの中核部分は身体が記憶している一方で、心はそれを無視しようとするため、心身の不一致が生じます。トラウマを抱える人は、身体に過剰なエネルギーを閉じ込めているため、些細なことでも全身が緊張し、ソワソワしたり、ムズムズと落ち着かなくなったりします。これにより、日常生活に支障が出て、他人との関係もぎこちなくなります。

 

さらに、外部からの刺激に過敏で、不安や焦りを感じやすくなり、身体が緊張すると問題解決が難しくなることもあります。そうした人は、解離や離人を利用して強い刺激や身体の不快感を遮断し、日常生活を無理にこなしているケースが多いのです。

 

治療が進むにつれ、解離や離人が解消され、身体感覚が戻ってきますが、この時点で恐怖や怒り、焦燥感に直面することがしんどく感じられるため、治療が停滞することもあります。また、身体感覚が戻ったことで、過去に抑え込んでいた闘争・逃走の反応が現れ、怒りや恐怖、悲しみ、焦りなどが増して、精神的に辛くなることがあります。

 

その結果、他者に対する警戒心が高まり、小さな刺激にも敏感に反応するようになると、交感神経系が優位になり、過覚醒状態が引き起こされます。この状態では、怒りや反撃したいという感情が湧き上がり、日常生活に支障をきたす場合があります。

 

1.過覚醒への効果的な対処法:身体感覚に焦点を当てた技法

 

過覚醒状態に対処するためには、呼吸法や瞑想、そして身体感覚に意識を向けることが重要です。これらの方法を通じて、心と体を統合し、自律神経を整えるプロセスを促進します。トラウマを抱える人は、嫌悪する刺激を受けると、反射的に呼吸が浅く速くなり、眼圧が上がり、瞳孔が開き、喉が渇く、肩や顎が緊張するといった身体反応が起こります。さらに、視野が狭くなり、闘争・逃走反応が優位になり、動悸や焦燥感に支配されて、じっとしているのが難しくなります。

 

この闘争・逃走反応が終わった後でも、同じ姿勢を保ち続けると、身体の不快な部分が固まり、凍りつくことがあります。この固まった状態を緩和させるためには、その部分に意識を集中させていきますが、その際に嫌なイメージや不快な考えが浮かび、心と体を一致させることが困難になり、集中力が途切れることがあるでしょう。

 

この過程は、セラピストの支えが無いと非常に難しいこともありますが、凍りついた感覚を完全に体験することで、身体に震えや揺れ、痙攣、熱や寒気、鳥肌といった反応が起こり、過剰なエネルギーが放出されていきます。これにより、今まで感じたことのない安堵感が全身に広がり、自然な重さや、笑い、喜び、悲しみ、さらには眠気が戻ってきます。

 

また、日常生活の中でもイライラやモヤモヤ、ムズムズといった身体の硬直反応が出た場合には、あえて身体を動かさずに、凍りつく過程を再現する瞑想を行うことで、過覚醒状態を処理する方法もあります。しかし、この瞑想を一人でやり遂げるのは非常に難しく、セラピストのサポートが不可欠となるでしょう。

 

2.過覚醒への具体的な対処法:身体と心を落ち着ける方法

 

過覚醒状態になり、特に上半身に力が入って落ち着かないときには、まず足を地面にしっかりつけ、足裏の感覚を意識しながら20歩ほど歩いてみましょう。これにより、地に足がついた感覚が戻り、体の安定を感じやすくなります。続けて、バタフライハグや小さく体を縮めるポーズを取ることで、呼吸を整え、心を落ち着かせることができます。さらに、周囲を見渡し、眼球や首を自由に動かすこともリラックスに役立ちます。

 

次に、足を大きく動かしたり、肩を回したり、手をぶらぶらさせて全身の血行を促進しましょう。それでも身体の中に不快感が残る場合は、その感覚の変化を少し観察しながら、リラックスできる良いイメージを思い浮かべ、椅子に全身を預けて、力を抜きつつ呼吸を整えていきましょう。

 

さらに、時には自分が苦手とする相手のことを思い出し、心の中でその相手を打ち倒すようなイメージを持つことで、勝利感や安堵感を得て、身体の緊張を和らげるのも有効です。トラウマを抱えている人は、イライラやムズムズ、興奮といった不快な感覚から逃げ続けると、ネガティブなループに陥りがちです。ここで、トラウマに詳しいセラピストのサポートを受けながら、運動や瞑想、ヨガ、ストレッチを取り入れて、自分の身体と向き合う姿勢を持つことが重要です。

 

特に、筋肉の伸び縮みを自分で調整できるようになることや、不快な感覚と仲良くなれるようになることを目標に、身体との対話を深めることで、心身のバランスを取り戻すことが可能になります。

 第7節.

トラウマからの回復:心と身体の再生と自己肯定の道


トラウマの症状が徐々に軽減していくと、セラピストとの間に愛着関係が深まります。この愛着関係は、治療において重要な要素であり、外の世界での社会交流や活動性も向上させます。セラピーの対話では、神経システムが変わることで心に余裕が生まれ、精神的なスペースが広がります。このスペースを利用し、精神分析的な自由連想法を通じて、思考や問題解決、対人関係などに焦点を当てます。

 

不確実な人生や動かしがたい他者との関係に向き合いながら、クライエントがその状況を正確に把握し、自分自身の人生を適切に対処できるよう支援していきます。その過程で、現実世界で新しい経験が獲得され、自分自身が新たな姿に生まれ変わるのです。

 

瞑想のセッションでは、脳と身体の繋がりに意識を向け、感覚や動きを注意深く観察します。また、不動状態という感覚に入り込み、地獄のような世界を経験することで、自分の健全な攻撃性を使って勝利を体感するイメージワークも行います。こうしたプロセスを通じて、現実と空想の世界を行き来しながら様々な感覚に馴染み、自分自身との調和を深めていきます。

 

最終的に、自分の身体感覚や感情と親しむことで、リラックス効果が高まり、「自分が自分である」という感覚がより確かなものへと変わっていきます。

 

1.恐怖と凍りつきを乗り越えて、身体と心を再生する

 

トラウマとは、まるで十字架に磔にされ、処刑されるような極限状態のことです。人が恐怖に支配され、動けなくなると、頭の中はパニックに陥りますが、取り返しのつかない恐怖が襲いかかると、息が詰まり、視界が真っ白になり、意識を失い、身体は崩壊していきます。この崩壊を防ぐために、人は凍りついて自らを機能停止させますが、その結果、皮膚や内臓の感覚が消え、意識が遠のき、全身が溶けるように感じるのです。

 

トラウマ治療では、段階を踏んでこの恐怖に向き合い、不動状態に意識的に入ることで、自分の身体感覚を取り戻していきます。凍りついた身体に意識を集中させると、トラウマに閉じ込められていた身体が震えたり、熱を持ったりして解放のプロセスが始まります。身体全体が熱い波の中で拡がり、トラウマ状態から解放されることで、体内に安心感が生まれ、神経システムが平衡状態に戻ります。この過程で、胸の固さが解け、深い呼吸が可能となり、背筋が伸び、姿勢も良くなって、手足に力が漲ってくるのです。

 

不動状態に入る瞑想を繰り返すことで、正常な身体感覚を日常生活に取り入れることができ、脳や神経系にも変化が現れ、トラウマによる困難が次第に解消されていきます。対人関係における緊張も緩和され、孤立や疎外感が消え、社会交流のシステムが活性化します。また、長期間凍りついた状態で生きてきた人々は、基礎体温が上昇し、血流が改善され、自律神経や免疫力、ホルモンバランスも整い始めます。

 

その結果、風邪を引きにくくなり、不眠やうつ症状、PMS、過呼吸などの問題が改善し、身体的な不調も徐々に消えていきます。さらに、フラッシュバックが起きそうになっても、過去に引きずり込まれることがなくなり、嫌なことを思い続けることも難しくなります。こうして、身体と心が再生し、日常生活の中で活力を取り戻すことができるのです。

 

2.自己調整と自己肯定:自信を取り戻す道

 

身体や神経の状態を把握し、自分で自己調整を行えるようになることは、日常生活の質を大きく向上させます。これまで、日常的に気を張り続け、肩に力が入りがちな生活を送ってきた人も、徐々にその緊張を解き、自分自身をリラックスさせ、思ったことを自然に話せるようになります。

 

心と身体がリラックスし、安心感が得られるようになると、トラウマによって繰り返していた不安なパターンから抜け出すことが可能になります。追い詰められたとしても、今まで生き延びてきた自分を振り返り、その努力を称賛することで、「自分は大丈夫」「これから先も何とかなる」という自信が芽生えます。

 

この自信は、特に明確な根拠がなくとも、自己肯定感につながります。自分自身に価値を見出し、堂々とこの世界を生き抜くための力へと変わるのです。

 第8節.

トラウマから抜け出す方法:心身のバランスを取り戻す


トラウマから回復するためには、脳の働きを理解し、情動脳と理性脳のバランスを整えることが重要です。ヴァン・デア・コルクの著書『身体はトラウマを記憶する』では、このメカニズムを解説しており、神経科学者ジョセフ・ルドゥーの研究に基づいて、トラウマの影響を受けた脳をどのように回復させるかを説明しています。

 

彼の研究によると、情動脳に意識的にアクセスするためには、自己認識を通じて内側前頭前皮質を活性化させることが必要です。つまり、自分の内側で何が起きているのかを理解し、感情や体の反応に気づくことで、トラウマの影響を減らし、バランスを取り戻すことができます。

 

トラウマ治療には、さまざまな方法があり、効果的なアプローチとして以下のものがあります:

  • マインドフルネス: 現在の瞬間に注意を向け、自分の感覚や思考に気づく練習
  • ソマティックエクスペリエンス: 身体の感覚に焦点を当て、トラウマ反応を処理する
  • アクセプタンス・コミットメント・セラピー: 自分の感情や体験を受け入れることで、前向きな行動を取る
  • 呼吸法と瞑想: 自律神経を整え、心身の安定を図る
  • ヨーガやイメージ療法: 身体と心のつながりを強化し、内側の感覚を再発見する
  • 芸術表現療法やニューロフィードバック: 自己表現を通じて内面の変化を促す

これらの方法を取り入れることで、トラウマに対する自己認識が深まり、心身のバランスを取り戻し、回復への道を進むことができます。

 

2.トラウマ治療の核心:身体感覚を取り戻し、内側の平穏を築く

 

トラウマ治療では、まず自分の身体の感覚に立ち戻り、安心感を得ることが最も重要です。過去に引きずられることなく、外傷体験を振り返り、その時どのように感じ、どう振る舞ったのかを冷静に受け止められる状態を目指します。トラウマを抱えた人は、自分の感覚に耐え、内部の経験と友達になり、新たな行動パターンを学ぶ力があることを自覚する必要があります。

 

自分が何を感じているかに気づくだけで、感情の調整が容易になり、内部で起こっていることを無視する習慣から解放される手助けになります。内面のプロセスを観察する力が養われると、脳の論理的な部分と情緒的な部分をつなぐ回路が活性化します。この回路は、人が意識的に脳の知覚システムを再構築するための、現時点で唯一知られている方法です。

 

トラウマ治療を通じて、自分の身体と心のつながりを再発見し、過去にとらわれない新しい生き方を構築していくことが可能です。

 

参考文献

ベッセル・ヴァン・デア・コーク:(柴田裕之 訳、杉山登志郎 訳)『身体はトラウマを記憶する』紀伊国屋 2016年

 

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論考 井上陽平