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親子関係がうまくいかない理由と疲れた子どもの特徴


 第1節.

目に見えない暴力:家庭内での見えない虐待とその影響


毒親や虐待という言葉を聞くと、まず思い浮かぶのは、食事を与えない、暴力を振るうといった明らかに過酷な状況です。しかし、ごく一般的な家庭においても、目に見えない形での暴力が存在することがあります。たとえば、親が愛情のつもりで子どもに習い事や塾に通わせる場合がそれにあたります。親は、自分が叶えられなかった夢や理想を子どもに託し、惜しみなくお金をつぎ込んで「こうなってほしい」という願いを押しつけることがあります。

 

しかし、親が愛情と思っている行為が、実は子どもにとっては大きな重圧となっていることも少なくありません。親の期待に応えなければならないというプレッシャーは、子どもにとって計り知れない負担を生むことがあります。親の夢や理想を背負わされた子どもは、自分の意思とは関係なく、その期待に応えようと努力し続けることになりますが、その過程で自分自身の欲求や感情を抑え込むことを余儀なくされます。

 

こうした状況は、表面的には見えにくいかもしれませんが、子どもの心に深い傷を残す可能性があります。親の理想を追い求めることで、子どもは自分の本来の姿を見失い、自分の感情や夢を無視し続けることになります。その結果、成長するにつれて自分が本当に望んでいることがわからなくなり、自己評価が低下し、精神的な疲弊を感じることが多くなるのです。

 

目に見えない形での暴力は、外からは見過ごされがちですが、その影響は決して軽視できるものではありません。子どもが自分自身の人生を歩むためには、親の期待に縛られず、自分の意志で選択し、行動できる環境が必要です。親が子どもに夢や理想を託すことが、子どもにとってどれほどの重荷となるのかを、社会全体で理解し、支援していくことが重要です。

 

1. 理想の押しつけと自己喪失

 

特に、プライドが高く完璧主義の母親のもとで育つ子どもは、常に「良い子で完璧に育たなければならない」という厳しい理想を押しつけられ、そのプレッシャーの中で成長します。このような環境では、子どもは自分の本音を次第に話せなくなり、心の中では別のことを考えながらも、表面上は「良い子」を演じるようになります。母親の期待に応えようとするあまり、子どもは自分の意志や感情を抑え込み続け、やがて自分が本当に何を望んでいるのかさえわからなくなってしまいます。

 

この過程で、子どもは自分の感情や欲求を押し殺し、親の期待に沿うように生きることが習慣化していきます。自分の考えや気持ちを表現することができなくなり、内心では別のことを考えていても、親の目には「理想的な子ども」であり続けようとするのです。その結果、子どもは自己の存在価値やアイデンティティを見失い、内面では深い孤独感や葛藤を抱えることになります。

 

このような抑圧された環境は、子どもの心に深い傷を残すことが多く、自尊心の低下や精神的な疲労感を引き起こす原因となります。親の言いなりになり続けることで、子どもは自分自身を見失い、成長するにつれて自己肯定感を持てなくなり、将来的には精神的な健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

 

2. 親の支配と子どもの恐怖

 

母親が自分の思い通りに子どもを操ろうとすると、子どもは親の顔色や声のトーン、生活音、さらには親の気配に至るまで、すべてに敏感になります。子どもの生活は、常に親の機嫌を伺いながら過ごすことが日常となり、神経を研ぎ澄ませ、怯えながら息を潜めて生きるようになります。このような環境では、子どもは安心感を得ることができず、心の中で常に緊張と不安を抱え続けることになります。

 

理不尽な叱責や無意味な怒りにさらされると、子どもは「どうして?なぜ?」と自問自答を繰り返すことになりますが、明確な答えが得られることはほとんどありません。そのため、子どもは自分を責めたり、状況に無理やり適応することで、その場を乗り切るしかなくなります。このような状況に長期間さらされると、子どもは次第に自己を抑圧し、自分の感情や思考を表現することができなくなり、内面での葛藤が深まっていきます。

 

このような生活は、子どもに深い精神的な傷を残し、成長してからもその影響が続くことが少なくありません。子どもは自分の存在を否定されているように感じ、自己肯定感を失ってしまうことが多く、これが将来的な心理的問題の原因となる可能性があります。親の機嫌に左右される日々は、子どもにとって非常に過酷であり、その影響は長く尾を引くものとなるのです。

 

3. 過干渉と無関心の二重の影響

 

過干渉な親に育てられた子どもは、引きこもりやすくなる傾向があります。親が子どもの言動に対して常に評価を下し、過度に干渉し、生活の細部にまで介入してくると、子どもは自由に物事に挑戦したり、楽しんだりする意欲を次第に失ってしまいます。親が子どもの人生を自分の延長として見なしてしまうことで、子どもはまるで自分の所有物のように扱われ、母親が溜め込んだストレスが子どもに向けられることも少なくありません。こうした状況では、子どもは「怖い」「もう嫌だ」「うんざりだ」といった感情を心の中に押し込め、親の期待に応えるために自分を無理やり適応させようとします。しかし、その代償として、子どもは自己の本来の感情や欲望を抑え込み、内面的な葛藤を抱えることになります。

 

一方で、無関心な親に育てられた子どもにも深刻な影響が現れます。親が宗教や社会活動、ギャンブル、趣味に没頭し、子どものことを全く気にかけない場合、子どもの健康や成長に対する関心が著しく欠如してしまいます。たとえば、子どもが痩せすぎていたり、太り過ぎていたり、歯がボロボロであっても、親はまったく気にかけることがありません。こうした無関心な環境で育った子どもは、心に大きな欠陥を抱えたまま成長し、大人になったときにその影響が顕在化することが多いのです。彼らは自己価値感を見失い、適応障害や心理的問題を抱えるリスクが高まります。

 

4. 複雑な感情と葛藤

 

こうした親の悪い側面に耐えることは、子どもにとって非常に辛い経験です。しかし、それ以上に子どもを深く悩ませるのは、自分が親を「悪い親」と決めつけてしまうことで、育ててもらった感謝の気持ちを無視しているのではないかという罪悪感です。親に対する恨みや疲労感が蓄積する一方で、育ててもらったことへの感謝の気持ちも捨てきれず、子どもは心の中で複雑な感情に引き裂かれるような苦しみを味わいます。

 

このような葛藤は、子どもにとって大きな精神的負担となり、自己評価や自己認識に深刻な影響を及ぼします。親に対する複雑な感情が解消されないまま成長すると、子どもは自分自身を見失いがちになり、将来的に対人関係や自己肯定感に問題を抱えることが多くなります。親への愛情と恨み、感謝と憎しみが交錯する中で、子どもは自分の感情を整理できず、その結果、心の成長や安定に大きな影響を受けるのです。

 

この内面的な葛藤が続くと、子どもは自分を責め続けるようになり、親との関係だけでなく、自分自身との関係にも悪影響を及ぼします。親に対する感情の整理は、子どもにとって大きな課題であり、それを乗り越えるためには時間とサポートが必要です。この複雑な感情に正面から向き合い、少しずつでも解きほぐしていくことが、子どもが健全に成長し、豊かな人生を歩むために欠かせないステップです。

 第2節.

虐待がもたらす子どものサバイバルモード


虐待がある家庭では、子どもは常に緊張や興奮状態に晒され、心と身体が過度に覚醒した「闘争・逃走モード」で過ごすか、目立たないように息を潜めて、我慢に我慢を重ね、身体を凍りつかせる「死んだふりモード」で生きることを余儀なくされます。親に出くわすかどうか、常に神経を張りつめながら、心臓がバクバクと音を立て、親の足音や話す内容に耳を澄ませる日々を送ります。このような過覚醒や凍りつきの状態で生活し続けることで、自律神経系が調整不全に陥り、呼吸数や心拍数に異常をきたすこともあります。

 

虐待を受けながら育つ子どもは、親の様子を伺いながら生活しますが、その親が近づいてくると緊張が一気に高まり、強い焦りや追い詰められた感覚に襲われます。呼吸は浅く速くなり、酸素がうまく吸えず、息が止まりそうになります。親が背後にいると感じるだけで、手が震えてしまうこともあります。

 

1. 子どもは常にサバイバルモードで生きている

 

家庭内では、子どもはまさにサバイバルモードで生きています。脳や身体の神経は危険を察知しようとし、親の声、叫び声、気配、足音、匂いなど、あらゆるものに意識を集中させています。子どもは親が今どこで何をしているのかを常に監視し、次に何が起こるのかを予測しなければならないのです。些細な音でも見逃せば、命取りになりかねないと感じています。

 

特に、統合失調症の母親と暮らす場合、会話が成立しないことも多く、母親がウロウロしたり叫んだりする姿を見て、子どもは不安に苛まれます。ヒステリックな母親の場合は、気分の浮き沈みが激しく、不機嫌なときには大きな音を立てたり金切り声を上げたりするため、子どもはどう対処すればよいのか分からず、混乱してしまいます。

 

また、アルコール依存症などの親を持つ子どもは、逃げ場を失ってしまいます。依存症の親を持つ場合、子どもは耐え続けるしかありません。大人になれば親との距離を置くことも可能ですが、子どものうちは自分を育ててくれる親から離れることができないため、逃げられない状況に追い込まれます。虐待のある家庭で育つ子どもにとって、最も辛いのは親から逃げることができないという現実です。

 

2. 感情を失い、心が閉ざされていく

 

親が何をしてくるかわからないため、子どもは全く安心できません。特に、母親の不安や心配、不機嫌の振れ幅が大きい場合、子どもはそれをなだめるために精一杯動きます。母親の不機嫌に振り回され、子どもは疲れ果てて動けなくなりますが、それでも動かざるを得ない状況に追い込まれ、疲れ切った身体に鞭を打ちながら生活を続けます。こうして子どもは、自分が望んだ成熟した母親ではなく、未成熟な親であったことに深い落胆を覚えます。親は、子どものように未熟であり、自分自身を保つために子どもを犠牲にしているような側面があります。その結果、親の犠牲になった子どもは、まるで操り人形のように動かされ、大人になる頃には怒りや恨みが蓄積された状態になってしまいます。

 

3. 無条件の愛情が子どもの成長に不可欠

 

親は本来、子どもの期待に応える存在であり、子どもは親の無条件の愛情を受けることで安心感を得て、人格を形成していきます。しかし、親が子どもを自分の期待通りに生きさせようとし、理不尽な要求に子どもを従わせ続けると、子どもは次第に自分自身を見失い、他者との健全な関係を築くことが難しくなります。

 

子どもは、親を喜ばせようと「良い子」であろうと努力しますが、母親の苦しさや生きづらさを理解しようと無理に思い込もうとする過程で、心の中に大きな葛藤を抱えることになります。母親を可哀そうに思い、何とか理解しようとする一方で、自分の本心や感情を抑え込んでしまうため、次第に他人との会話や関係性の中で自分の気持ちを表現できなくなります。

 

4. 感情を失い、八方塞がりになる

 

幼少期から親の理不尽な要求に従い続けた結果、子どもは次第に感情を失い、自分の本心を話すことができなくなります。誰かと話をする場面でも、ただ決められたセリフを話すだけのようになり、喜びや楽しさを感じることができなくなります。そうして、子どもは感情を閉ざし、何も考えないように自分を守るしかなくなっていきます。これが続くと、子どもは自分の人生を歩むことができず、やがて八方塞がりの状態に追い込まれてしまうのです。

 

このような過酷な状況から抜け出すためには、親からの無条件の愛情が必要不可欠であり、社会全体で子どもたちが健全に成長できる環境を整えることが重要です。子どもが安心して自分らしく生きるためには、まず親が自らの未成熟さを認識し、子どもの人生を尊重する姿勢が求められます。そして、子どもたちが自分の感情や意志を大切にし、健全な人間関係を築いていけるようなサポートが必要です。

 第3節.

まとめ


このように、虐待をする親の元で育った子どもは、逃げ場を持てず、常に闘争モードに入るか、恐怖で身体を凍りつかせながら生きています。子どもは親の言動を先読みし、怒られないように、気に障らないようにと、常に身を潜めて生活します。身体的な暴力を振るう親や、依存症に苦しむ親、統合失調症などの精神疾患を抱えた親の場合、その問題は比較的目に見えやすいですが、親による虐待はもっと身近な形で、日常の中に潜んでいることも多いのです。

 

例えば、教育熱心な親が子どもの塾や受験について熱心に調べ、子どもに最良の教育を受けさせようとすることがあります。一見すると、これは愛情深い行動のように思えますが、行き過ぎると親の過干渉となり、子どもは家の中でさえ自分の居場所を失ってしまいます。親は不安や心配を避けるために、子どものことを何でも先回りして決めてしまい、その結果、子どもが自分で選択する機会を奪われてしまいます。親の期待に沿った「良い子」であることが求められ、子どもの自由な選択の余地がなくなるのです。

 

また、子どもは悪いことをしていないのに親から怒られることがあり、何が理由で怒られているのかも分からないまま理不尽な目に遭います。こうした経験を繰り返すうちに、子どもは次第に物事を歪んで受け取るようになり、誰の言い分にも矛盾を感じやすくなります。特に相手の態度が横柄であれば、強いイライラを覚えることもあります。親に怒られないようにと、子どもは頭の中で瞬時に状況を判断し、常に「正しいこと」をしようと過剰に努力するようになります。

 

先にも述べたように、子ども時代には親子関係から距離を置くことは非常に難しく、親に依存せざるを得ない状況です。そのため、親子関係で生じるトラウマは、子どもにとって深刻な問題となります。親からの理不尽な要求や過干渉によって形成された心の傷は、成長してからも長く影響を及ぼし、子どもの将来に深刻な影を落とすことがあります。親子関係における虐待は、子どもが自分自身を見失い、健全な人間関係を築く上で大きな障害となる可能性があるのです。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平

 

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