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複雑なトラウマを抱えたリスクの高い子どもの治療と対応


複合的なトラウマを負った子どもは、日常の些細な出来事でも脳や身体が過剰に反応し、まるで本物の危険に直面しているかのように感じます。その結果、心拍や呼吸が急激に変動し、血流が乱れ、筋肉が硬直してしまいます。身体がこわばる一方、脳は危機を察知しようと様々な情報に過敏に反応し、感覚が過負荷状態になります。環境の変化により覚醒度が乱高下し、気分の波が激しく、注意や集中が続かず、他の子どもたちのように穏やかで元気な日常を送ることが難しくなります。

 

このため、虐待的な家庭環境や学校社会の複雑な人間関係に直面すると、子どもは過剰に反応し、すぐに心的エネルギーが尽きてしまいます。その結果、自分をコントロールできずに感情が爆発したり、逆に麻痺してしまい、表情が暗くなることで、人間関係がうまくいかなくなります。過酷な日々が続くと、過剰な警戒心と過緊張状態が身体に染み付き、心身共に消耗していきます。ストレスホルモンが常に高い状態が続き、身体内部には闘争モードの怒りや逃避したくなる不快感が閉じ込められ、それが内なる自己攻撃へとつながります。

 

こうした状況が続くと、精神的な症状が現れ、自己調整機能が崩壊し、覚醒度のコントロールが困難になります。ホルモンバランスの乱れや免疫システムの故障、自律神経系の不調、身体発達の偏り、さらには知的発達の遅れなどが生じます。また、憂鬱感、自己否定、フラッシュバック、悪夢、パニック、感情のコントロールの難しさ、虚偽記憶、気分の激しい変動、他者への攻撃性の置き換え、身体的不調、シャットダウン、極端な行動といった多様な症状も現れます。これらの複雑な問題は、トラウマを抱えた子どもたちが健全な成長を阻む深刻な障害となるのです。

ストレスに支配される子どもの心と身体


最悪の場合、子どもは一瞬で凍りつき、ストレスホルモンが常に高く、過緊張状態が続くことで、ほんの小さな問題にも過剰に反応し、闘争本能が即座に引き起こされたり、フラッシュバックやパニックが誘発されることがあります。もし、子どもが自分を虐待する親と共に日常生活を送り、絶え間ないストレスや緊張の中で過ごすならば、脳の扁桃体や交感神経が過敏に反応し、過覚醒や断片的なフラッシュバックが頻発することになります。これにより、子どもは半ば自動的に理由もなく悲しみを感じたり、無気力になったり、理不尽な怒りが突如として湧き上がり、手を出したり暴言を吐いたり、物に当たるような行動を取ってしまうのです。

 

こうした原始的な防衛システムに支配されると、子どもは自分でも理由がわからないまま、コントロール不能な行動に突き動かされてしまいます。その結果、問題行動が増え、周囲の人々から嫌われることになります。理性が働いているときには、子どもは周りに嫌われないようにビクビクし、人の真似をしたり、猫をかぶるようになります。しかし、自分の思い通りにならない場面では、すぐにイライラし、自動的に暴言や暴力で反応してしまいます。その瞬間に爆発し癇癪を起こすことで、さらに相手に嫌われ、やり返され、子どもの頭も体も限界に達してしまいます。

 

このように、自分の意志に反した自動的な反応が繰り返されることで、子どもは次第に主体性の感覚を失い、訳も分からない世界に怯え、根源的な苦悩を抱えるようになります。外から見れば、衝動的で問題の多い子どもに映るかもしれませんが、その心の内側では、自分が周りに迷惑をかけてばかりで申し訳ないという思いや、生まれてこなければよかったという名づけようのない深い悲しみを抱えています。過去の情景を思い出そうとしてもしんどくなり、心が疲弊してしまうため、心が空っぽの状態では、何かを描こうとしても棒人間しか描けないのです。

恐怖と絶望の中で分裂する子どもの心


親子関係や学校でのトラブルが原因で、子どもは自動的に暴言や暴力を繰り返し、その背後には言語を司る左脳の鈍化があるため、行動の自覚が難しくなります。結果として、子どもは他者のせいにしやすく、周囲からは愛されない、悪く汚らしい存在として扱われ、自らを縛りつける重荷を背負うことになります。また、過去のトラウマを再現するかのように、現在の人間関係でも破壊的な行動を繰り返し、そのたびに処罰され、不条理な環境で抑圧され続けることで、人を恐れ、集団に馴染めなくなります。

 

さらに、虐待や大人から力で抑えつけられる体験がフラッシュバックや悪夢、パニック、不動状態として繰り返され、日常生活は次第に疲弊していきます。この結果、背側迷走神経が主導権を握り、生き生きとした感覚が失われ、身体は動けなくなります。弱音を吐いても受け入れてもらえず、満たされない思いと神経の尖りがストレスを生み出し、恐怖症に囚われ、頭の中が霧がかったような状態に陥り、心の成長が止まってしまいます。こうした恐怖で固まり閉ざされた世界では、息が詰まり、喉が閉まり、胸が苦しくなり、泣き叫ぶこともできなくなります。

 

この過程で、心の中の色彩は消え去り、白か黒か、敵か味方かという極端な認識に囚われ、不安と恐怖が交錯します。自己の存在が汚染され、自分が人間なのか物体なのかさえ分からなくなり、自己の崩壊が進みます。身体は次第に衰弱し、恥やしんどさは瞬間的に忘れ去られ、解離性健忘やトランス状態で切り離されます。恐怖で動けなくなりながらも、外界の要求に応えるために、自己のまとまりは崩れ、同時に別の自己が精緻化、自律化、解放されます。こうして悪党、暴君、従順、罪悪の子どもが一つの身体の中で共存し、心の中が迫害的に脅かされ続けることで、最終的には混乱と絶望に支配されます。

 

その結果、悪党や暴君の部分が理想化され、サディスティックやマゾヒスティックな倒錯した人間関係が築かれていきます。これらの関係性は、自己の苦悩と無力感の象徴として、さらに深刻な問題を引き起こすことになります。

対応困難な子どもとの心の対話—セラピストが紡ぐ癒し


当カウンセリングルームでは、まずセラピストがトラウマを抱える子どもの心と身体の状態を丁寧に観察し、理解することから始まります。子どもとセラピストの間で形成される移行空間は非常に複雑で、まるで救いようのない世界が広がるかのような、難しい構造を持っています。子どもは、その内的世界にセラピストを巻き込み、自分のルールを持ち出して操作し、自分だけが抜け出そうとしますが、セラピストはその世界に足を取られ、立ち往生してしまいます。

 

この過程で、子どもは疲れ切ったセラピストの姿を見て、反撃を恐れつつも興奮を覚えます。そして、メルツァーの概念である「トイレットブレスト」のように、セラピストを排泄物の受け皿として扱い、自分の中にある悪や汚れた感情を次々とぶつけてきます。セラピストはそのたびに傷つけられ、汚れた対象となりますが、自分の痛みを子どもに伝えつつ、同時に変わらない愛情と不屈の思いやりを示すことで、子どもは次第に自分の鬱屈した感情から解放されていきます。

 

この過程を通じて、子どもはセラピストを単なる悪い対象から愛すべき存在へと認識を変えていきます。セラピストの一貫した受容と愛情に触れ、子どもは抑うつ感や罪悪感を抱きながらも、安心感を取り戻し、良い自己像を形成していくのです。今や子どもの内面には、良い自己と愛すべきセラピストという存在が共存し、その二人の間で安心と落ち着きが生まれます。

 

治療の過程では、良い状態と悪い状態を行き来しながらも、セラピストの愛と思いやりに同一化することで、子どもは本当の良い自己像を持てるようになります。このように、セラピストが子どもの根底にある信頼を絶えず伝え続けることが重要です。治療が無事に終結した後、子どもの表情には、言葉にできないほどの輝きが宿り、大人への成長を見守ることができます。

 

ただし、セラピストが関われるのは週に1回の限られた時間であるため、家族からのしっかりとしたケアと社会的支援が欠かせません。この連携があってこそ、子どもは真の癒しと成長を遂げることができるのです。

逆境にさらされた子どもが抱える心身への深刻な影響


子ども時代に多くの逆境を経験した子どもは、世界が敵だらけに見え、心身ともに消耗していきます。その結果、身体の成長が遅れたり、鈍くなったりすることがあります。心の成長も同様に止まり、人に対して臆病になり、人間不信や自信喪失に陥りやすくなります。身体が縮こまった状態が長く続くと、血流が悪化し、呼吸が浅くなることで酸素不足が生じ、原因不明の身体症状を引き起こしやすくなります。これにより、寿命が5年から20年ほど縮む可能性もあります。

 

例えば、うつ病などの精神疾患や糖尿病などの慢性疾患にかかりやすくなり、社会生活が困難になって引きこもりや自殺企図に至る危険性が高まります。また、反社会的行動を繰り返したり、護身用のナイフを持ち歩いたり、依存や嗜癖行動に苦しんだりすることがあります。さらに、風俗産業で働いたり、犯罪の加害者や被害者になるリスクも増加します。

 

子どもの頃に経験した痛みは、大人になる過程でさらに深まり、成長していくことがあります。この痛みの部分は、痛みを繰り返し求めることでしか自己を維持できず、喜びを見つけられないまま、他者に痛みを与えることでしか自分の存在を感じられなくなります。その結果、自分自身や周囲を苦しめ、悩ましい状況を作り出すことがあるのです。

 

このように、逆境にさらされた子どもが抱える問題は、単に個人の心と体にとどまらず、社会全体にも深刻な影響を及ぼすことがあります。これらの子どもたちが健やかに成長できるよう、早期の介入と適切な支援が求められます。

 

トラウマケア専門こころのえ相談室

論考 井上陽平

 

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