アダルトチルドレンとは、本来、親のアルコール依存や嗜癖行動が原因で家庭環境が崩壊し、その中で成人した子どもたちを指します。しかし、現在ではこの概念が拡大され、虐待やネグレクトを受けた親との関係でトラウマを抱えた人や、家族のために自己犠牲を強いられ、子どもらしく過ごせなかった人たちも含まれるようになりました。
虐待のある家庭環境とは、家の中が常に険悪なムードに包まれ、親が叩いたり罵声を浴びせたりすることで、子どもが恐怖に支配される場所です。その恐怖は、どこまでも追いかけてくるかのように感じられます。また、親から十分な愛情を与えてもらえず、他の兄弟と同じ扱いを受けなかったことも、子どもの心に深い傷を残します。
こうした環境で育った子どもは、物心ついた頃から親に過剰に気を遣い、親の関心や愛情を得ようと必死に努力します。親がすべての世界で生きているうちに、次第に親の言動の異常さに気づきますが、その異常さに耐え続けるうちに、限界を迎えます。我慢を重ねた結果、自分を見失い、精神疾患やパーソナリティ障害を発症し、自分の心を健やかに育てることができないまま大人になってしまうのです。
機能不全家庭では、家族の誰かが常に喧嘩をしており、子どもは辛い状況に耐えることが日常となっています。繰り返し脅かされ続ける中で、抵抗することもできず、身体が固まり、次第にその体験がトラウマとなっていきます。その結果、子どもは家の中でビクビクしながら過ごすようになり、臆病な性格になりやすく、人前に出ることや目立つことを避けるようになります。
子どもは、喧嘩ばかりする家族を何とかしたいと願い、トラブルが起きないように自分にできることを全力で行います。常に先回りして空気を読み、家族が仲良くなれるように努力します。しかし、家族の喧嘩は止まらず、そのたびにイライラし、自分を責めることになります。親に口出ししても怒られるばかりで、なんとか折り合いをつけようと頑張っても、結局は気疲れだけが残るのです。
自分は家族を大切に思っているのに、家族が自分を大切にしていないことに気づいたとき、その時点で既に手遅れかもしれないという絶望感に襲われます。これらの苦悩と葛藤が、子どもの心に深い傷を残し、家族との関係において、取り返しのつかない影響を与えることになります。
機能不全家庭で育った大人たちは、多くの場合、自分に自信が持てず、自分を駄目な人間だと感じています。生きることが辛く、時には消えてしまいたいと思うことさえあります。家族の中には嫌いな人がいることが多く、厳しい環境で育てられたため、身体は常に緊張状態にあります。片方の親が酷い態度を取る中で、暴言や暴力を受けるもう片方の親を助けようとしたり、支配的な親に従わざるを得ない環境で育ってきました。
また、親だけでなく他者の視線にも過敏で、どうしても人間を信頼できず、いつもオドオドして過ごしてきたのです。こうした環境で育ったアダルトチルドレンは、大人になっても心の傷を抱え続け、次第に窮地に追い込まれていきます。跳ね返す力を持てず、トラウマが重なり続けることで、心も体も様々な症状を抱えるようになります。これらの症状には、頭痛、胃痛、肩こり、息苦しさ、過呼吸、吐き気、アトピー、蕁麻疹、チック、リストカット、抜毛症などが見られます。
アダルトチルドレンは、幼少期に経験したトラウマを身体に抱え、その影響から嫌な場面に直面すると、身体がみるみる収縮し、凍りついてしまいます。心のバリアが壊れやすくなり、そのため周囲の様子を常に伺いながら、生き延びるための様々な方略を取るようになります。
アダルトチルドレンは、いくつかのタイプに分けることができます。例えば、他人に良く思われようと、自分の立ち居振る舞いをしっかりとコントロールする人や、逆に自分を制御できず、無秩序に生きる人がいます。また、人と関わることに関心を持てず、次第に孤立していく人や、自他の境界が曖昧で、相手の気持ちを考えずに積極的に関わろうとする人もいます。
一般的にアダルトチルドレンは、以下の5つのタイプに分類されます。
子どもの頃から、繰り返し脅かされ続ける環境にいると、トラウマが複雑化し、次第に自分の居場所がなくなり、怯えるしかなくなります。脅かされるたびに抵抗できず、次第に動けなくなり、心はフリーズしてしまいます。現実の苦しさから逃れるために、心は空想の世界へと逃避し、白昼夢に耽るようになります。危機が迫る場面では、動けなくなった子どもの代わりに、脳が防衛反応として「ヒーロー」の自分を生み出し、脅威に立ち向かおうとします。
また、幼少期に肌の温もりが不足していた子どもは、自分の元気のなさを埋めるために、空想の世界に没入します。女の子はスピリチュアルな空想へと耽溺し、男の子は力や誇大感を求め、戦隊ヒーローや強力な人物像と同一化することで、自己を保とうとします。男女共に、現実の親子関係よりも空想の人物をモデルにして、精神のバランスを取ろうとするのです。
例えば、男の子の場合、力強い男性性を追求し、力、成功、論理的思考、決断力を身につけようとします。周りの大人の顔色を伺いながら、常に正解を探り、優秀な成績を収めようと努力します。周囲の期待に応え、積極的に良い空気を作り、皆の輪の中心に立つことを目指し、何事も完璧にこなそうとする優等生になっていきます。彼らは、すべての期待に応えるために、自分を追い詰めながらも「完璧な自分」を作り上げようと奮闘します。
物心ついた頃から、過酷な状況が繰り返され、無理やり抵抗できない状況が続いてきました。その結果、「どうせ自分なんて」「どうせ世の中なんて」という思いが心に根付き、自分で自分を否定するようになりました。自分を犠牲にして周りに合わせるばかりで、自分の意志を持てず、ただされるがままの日々を送っていました。そのため、心の中は空っぽで、自己価値を感じることができません。
大人になる過程で、心身の限界に達し、うつ病、失感情症、摂食障害、強迫性障害といったさまざまな問題に苦しむようになり、情動の調整も難しくなっていきました。その結果、家族や周囲からは「問題児」として扱われるようになり、自分の存在がますます否定されるような感覚に苛まれることになりました。心の痛みが深まる中、自分自身を見失い、苦しみの連鎖から抜け出せずにいます。
物心ついた頃から、私は常に恐怖を感じ、弱々しく生きてきました。嫌な体験だけが心に残り、途方に暮れる日々を過ごしていました。繊細で傷つきやすい心を守るため、人目につかないように、自分の存在を隠し、まるで空気と同化するかのように息を潜め、足音を忍ばせながら、なんとか生き延びてきました。
安心できる場所はどこにもなく、時折、死んだふりをすることで心と身体を守ろうとしましたが、その結果、自分の身体性が消え、感情も失われ、生きているのか死んでいるのかさえも分からない状態に陥りました。私が日常生活を送っている姿は仮のものであり、本当の私は、深く深く心の奥底に隠れているのです。その内なる世界でしか、本当の自分を感じられないまま、外の世界ではただ生き延びるために存在を消してきました。
病気がちで、いつ死ぬか分からないと怯える親や、精神障害や発達障害などの問題を抱える親を支えなければならないという思いから、子どもに「ケアテイカー」という役割が生まれます。家庭の雰囲気が不穏になると息苦しさを感じ、親の顔色を伺いながら愚痴や相談を聞き、必死に親を喜ばせようと努力します。親が喜ぶことで、子どもも一時的に安心を得ることができ、自分の役割を果たしていると感じます。
子どもは親を素晴らしい存在だと思い込もうとし、親と一緒に泣き、時には保護者や世話役、ナースのような役割を担います。まだ子どもでありながら、親を支えるために自分の感情や欲求を後回しにし、自分自身の気持ちを抑え込むことが習慣化してしまいます。このようにして、親のために自分を犠牲にする「ケアテイカー」としての役割が強く根付いていくのです。
親から無視され、会話もない孤独な状況が続くと、子どもの心にはどうしようもない恐怖が芽生えます。その恐怖から、まるで「ピエロ」のような自分が生まれます。人から悪意を向けられることや、その場の雰囲気が悪くなることが怖くて、社会と関わるのがますます苦しくなります。目立たないように振る舞いたいと思う一方で、あまりにも存在感が薄くなるのは寂しく感じるため、明るさと気遣いで周囲を和ませ、平和を保とうとします。
争いごとが嫌いで、真面目な性格ゆえに、周りを楽しませようと振る舞い、自分を「ピエロ」のように見せることで、心のバランスを取ろうとするのです。しかし、このような振る舞いは、表面上は明るく見えても、内心には深い孤独や不安が隠されていることが多く、心の負担となることがあります。
一般の子どもたちは、ほど良い母親のもとで心を通わせ、共感し合いながら、最も進化した霊長類の神経を働かせて社会と交流し、健やかに大人へと成長していきます。しかし、機能不全家庭で育った子どもたちは、家族を大切に思う気持ちが逆に自分を苦しめ、不幸へと追い込む要因となることがあります。彼らは幼い頃から脅かされる環境で育ち、生きるか死ぬかのトラウマを抱えながら、常にサバイバルモードで神経を張り詰めて生きてきました。
さらに、心身に過大な負担を抱えながら、家族内で夫婦間の調整役まで務めることを余儀なくされ、必死に生き延びてきたのです。このような過酷な状況の中で、彼らは適応しようとするあまり、不適応な方法を身につけることとなり、自己不全感に苛まれるようになります。この影響は成人後も続き、人間不信や対人関係の困難を抱えることとなり、結果として、社会生活や家庭生活にもさまざまな問題を引き起こすようになります。
こうした子どもたちは、過去のトラウマや不安に囚われ続け、心の傷を抱えたまま大人になり、その影響から抜け出せずに苦しみ続けることが少なくありません。彼らが健全な心と体を取り戻すためには、適切なサポートと理解が欠かせません。
トラウマケア専門こころのえ相談室
論考 井上陽平