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ボーダーラインカップル:境界性人格障害の彼女との関係


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 第1節.

ボーダーラインの彼女と自己愛彼氏


「ボーダーラインカップル」という言葉は、精神科医の小此木啓吾が「精神医学ハンドブック」で使用した用語です。自己愛性パーソナリティ障害を持つ男性と、境界性パーソナリティ障害(ボーダーライン)を持つ女性がカップルになることがあります。この組み合わせでは、一定の関係を築ける場合があります。自己愛的な男性は、仮面を巧みに使い分け、演じ方や言葉の操作が上手であるため、最初のうちは境界性パーソナリティ障害を持つ女性の幻想を最大限に肯定できるかもしれません。また、自己愛的な男性はその場に応じた最適な方法で行動し、問題を解決できることが多いため、境界性特有の不安定さを一時的に立て直すことができる場合があります。

 

しかし、自己愛的な男性にはモラハラ傾向があるため、境界性パーソナリティ障害を持つ女性は次第に気を使いすぎ、自分を合わせることに疲れ、関係を続けることが困難になります。結果的に、彼女はこの関係から逃げ出したくなるでしょう。一般的に、境界性パーソナリティ障害を持つ女性が求めるパートナーは、自分を家族として受け入れてくれる理想的な両親像や、魂を引き合わせてくれる運命の相手です。彼女たちは、常にパートナーからの即時の連絡を望み、四六時中自分だけを見ていてほしい、常に味方でいてほしいと思っています。パートナーや親が他の人と話すと、彼女たちはひとりぼっちのような気持ちになり、落ち込んだり、発汗して身体がこわばったり、自分がいらない存在だと思い込んだりすることがあります。さらには、自己が小さくなり、どこか遠くに押しやられたような恐怖を感じることさえあるかもしれません。

 第1-1節.

ボーダーラインの彼女の魅力


境界性パーソナリティ障害を持つ女性、いわゆるボーダーラインの彼女は、その魅力に溢れた存在であると言われています。幼少期から非常に厳しい環境に身を置いていたため、個人を超えた元型的な防衛機制が彼女を守り、ヌミノースな力がその周囲に漂っています。しかし、彼女は現実世界では非常に壊れやすい一面を持ちながらも、内的な世界においては深い関係を築いています。彼女は何事にも真摯に向き合い、内省を重ねることで、人生の美しい側面に対して強い価値を見出します。

 

また、ボーダーラインの彼女は環境の変化に非常に敏感で、常に脅威に備えた生き方をしています。このため、常に身構える癖がついており、身体が凍りついたように緊張状態にあります。特に顔の表情や目、鼻、耳、口には力が入り、顎、首、肩、背中、そしてお腹のあたりが常に緊張しているため、姿勢が良く、落ち着いた雰囲気を醸し出しています。彼女の鎖骨の部分や華奢な首、端正な顔立ちは非常に美しく、白い肌も相まって魅力的です。しかし、目つきや表情が普通の人とは少し異なり、凍りついたような表情が見られることがあります。喉や気管支のあたりが痛みで凍りついているため、彼女の声には独特の魅力が宿っています。さらに、自分の価値を低く見積もり、見捨てられることへの不安や劣等感が強いため、人に良く思われたいと努力し、自分自身の見た目にも細心の注意を払っています。

 

一方で、彼女は自分に注意を向けても、自分の存在が空っぽであると感じてしまい、つまらなく感じます。その結果、自分よりも他者の存在が非常に大きく感じられ、その他者に必死にしがみつくことで、自分の幸福を見出そうとします。現実世界に適応している男性は、幼少期から負のオーラを背負い、怖がりで傷つきやすい彼女に対して特別な魅力を感じます。その姿には悲しみが似合うとも言えます。さらに、彼女が好きな人の前で見せる素直で感受性豊かな一面や、親に求めて叶わなかったことを求める子どものような部分と、大人の振る舞いができる部分とのギャップに、多くの男性は強く引き寄せられるのです。

 第1-2節.

ボーダーラインカップルの愛の世界


ボーダーラインの人と関わることは、本人だけでなく周囲の人々にも大きな苦しみをもたらすことが少なくありません。最初はボーダーラインの彼女を守りたい、助けてあげたいという気持ちから手を差し伸べるものの、次第に彼女の感情の波に何度も振り回され、疲れ果ててしまうことが多いのです。特に、思いやり深い男性や孤独で愛に飢えている男性ほど、ボーダーラインの彼女の境界性パーソナリティ特有の行動に巻き込まれやすいと言われています。

 

一般的に、不幸な生い立ちや強い見捨てられ不安を抱える彼女に対して、救済的な幻想を抱く男性との間では、一定の安定した関係が続くことがあります。彼女が「あなたが好き」「見捨てないで」「嫌いにならないで」「あなたがいないと生きていけない」といった切実な想いを伝えると、男性は全力でその愛情に応えようとします。しかし、彼女は心配症であるため、要求が尽きることはなく、些細なことで幻滅し、苛立ちを募らせることが多いのです。その結果、男性は彼女の感情の起伏に翻弄され、やがて関係が破綻してしまいます。

 

しかし、関係が一度破綻したとしても、その後に償いや許しのプロセスが展開されると、劇的で深い愛の世界へと発展することがあります。この繰り返しは、まるで愛と憎しみが交互に現れるドラマのようで、際限のない感情の波に飲み込まれることもあります。ボーダーラインの人との関係は、このように激しく揺れ動く感情の中で展開されることが多く、そこには強い依存と相互の葛藤が存在するのです。

 第1-3節.

ボーダーラインカップルの破綻


ボーダーライン特有の感情の不安定さに振り回されると、男性側は職を変えるなど、生活全般に影響が及び、疲労困憊してしまうことがあります。感情的にも金銭的にも多くを投資してきたため、関係を断ち切ることが難しくなり、未練が残ることも少なくありません。もし男性が社会的に成功していて力があれば、ボーダーラインの彼女はその愛情に支えられ、関係を続けていくことが可能です。しかし、男性がこれ以上投資できなくなると、問題解決が難しくなり、彼女の不安定さを解消できないまま、二人は抑うつ感や絶望感に陥ることがあります。

 

特にボーダーラインの彼女が非常に魅力的な場合、関係が破綻しそうになると、男性は全てを失う恐れを抱き、暴言や暴力で脅すか、時には自殺をほのめかして彼女の関心を引こうとすることがあります。これにより、関係の初期に見られた彼女が男性を心配して探し回る状況とは逆転し、男性が依存的になるケースもあります。一方で、もし彼女が魅力に欠けると感じられる場合、男性は次第に何もしなくなり、彼女はその冷淡な態度に腹を立て、苛立ちが募ります。この苛立ちが暴力や言葉で表れることもあり、その結果、二人の関係はさらに悪化していきます。

 

こうした関係では、どちらかが別れを切り出す一方で、もう一方がしがみつくというパターンが繰り返されることが多いです。最終的には関係が破綻するか、互いに疲れ果てた状態でダラダラと膠着状態が続くかもしれません。

 第2節.

ボーダーラインカップルの夫婦関係


ボーダーライン妻とその妻を支える夫との関係を描いた一文を「精神医学ハンドブック」のボーダーラインカップルで小此木啓吾が書いています。

 

「母親的な夫との間では安定していたのに、子育てで境界症候群をあらわす。夫と恋愛、結婚することによって、彼女は、見かけ上、大変安定した結婚生活を送った。寝食を共にするだけでなく、仕事も一緒にして、一日じゅう、そばで夫の仕事を手伝い、全面的に二人だけの共生的な間柄が出来上がった。夫も、このことで満足を得て、妻も自分の不安が緩和され、特有な依存関係が出来上がっていた。ところが、妻が妊娠し、出産することによって、子どもの世話を実家の母に頼ることもできず、ひたすら自分と夫だけで育てようとしたのであるが、夫が少しでも自分より優先して、赤ん坊をかわいがると、夫、ひいては赤ん坊に当たり、しまいには、夫のつくった商品を包丁でズタズタにして、床に投げたり、赤ん坊をほうり投げたりするようになった。夫の関心が赤ん坊に移った分、夫との間も嫌悪になり、子どもに対する虐待がしだいに深刻化した。本来、夫は自分が母にしてもらったケアを妻にしていたのだが、赤ん坊が生まれて、その母性的なケアが赤ん坊に移り、妻は、この三角関係の中で、夫から自分への愛情を奪った子供に憎らしい妨害者に対する攻撃を向けるようになったのである。このように、子どもさえいなければ、二人だけで共生的ー自己愛的に安定しているボーダーライン妻と夫との夫婦関係はしばしば見受けられる。」

 

ボーダーラインの妻は、夫から必要とされていると感じることで、そこに自分の居場所を見出し、安心感を得て、献身的に努力します。しかし、夫の愛情が今まで自分に向けられていたものから、子どもへと移ることで、自分の居場所を失ったように感じ、見捨てられ不安が強くなり、過去のトラウマが再び浮上することがあります。夫の視線が子どもに向かうたびに、彼女は子どもを無意識のうちにライバル視するようになり、特に自分が経験できなかった喜びを子どもが享受しているのを見て、強い嫉妬や羨望の感情が生まれることがあります。このような感情が積み重なると、妻は攻撃的になり、最悪の場合、子どもに対して虐待的な行動を取ってしまうこともあります。

 第3節.

ボーダーラインの彼女との恋愛


ボーダーラインの彼女と一生を共にしようと考えるのは誰にでもできることですが、実際に一緒に暮らすとなると非常にリスキーな選択となります。たとえ結婚に至ったとしても、彼女たちは感情的なストレスや疲労によって体調を崩し、仕事ができなくなったり、子育てが難しくなったり、身体を動かすことさえ困難になる日が来るかもしれません。また、彼女たちは他人の気配や音、匂い、振動に対して極端に敏感であるため、共に暮らすこと自体が大きな負担になる可能性があります。さらに、ボーダーライン特有の将来への不安や感情の不安定さ、落ち着きのなさ、被害感情、極端な行動に振り回され、心身ともに疲れ果ててしまうことも考えられます。

 

もし、あなたがボーダーラインの彼女の精神状態を悪化させるトリガーそのものになってしまった場合、一緒に暮らすことは非常に難しくなり、関係は破綻してしまうでしょう。結婚当初は、彼女があなたを理想化し、絶賛してくれるかもしれませんが、その熱も次第に冷めていくことが少なくありません。彼女があなたの愛を感じられなくなると、あなたはもはや彼女にとって「一番の存在」ではなくなり、批判やこき下ろしの対象にされる可能性もあります。

 第3-1節.

ボーダーラインの彼女の特徴


ボーダーラインの彼女は、日常的に身体がだるく、重たく感じ、不快感や痛みが常に付きまとっています。手足は冷え、ストレスや不安への耐性が極端に低いため、些細なことでも心が乱されてしまいます。不安や恐怖、寂しさ、孤独、焦り、苛立ち、怒りなどの感情が一気に押し寄せ、曖昧な状況に耐えられなくなります。そのため、物事を0か100か、白か黒か、善か悪か、敵か味方かといった二分法で捉え、確実なものを求める傾向があります。

 

彼女は、自分の内側に情動的人格部分を抱え、それが制御不能になることを恐れて過剰に適応しようとします。自分自身が不確かで、周囲の目を過剰に気にするため、周りに良く思われるように一生懸命頑張ります。しかし、他人からの悪意を恐れ、脅威を感じる状況では自分を見失い、自滅的な行動を繰り返すことに対する不安を抱えています。彼女は、自分や相手の欠点を受け入れることが難しく、感情的になったり、現実を否認して分裂的に振る舞ってしまうことがあります。

 

また、現実の厳しい刺激に対しては、筋肉が硬直し、身体が凍りつくような迷走神経反射が起こり、さまざまな身体症状が現れます。彼女は外の世界を悪意に満ちたものと感じており、神経質で怒りっぽく、ストレスに対して非常に脆弱です。脅威を感じると、過覚醒状態や部分的なフラッシュバック、解離症状が生じ、左脳の働きが鈍化し、理性的な判断が難しくなります。自分を被害者だと感じ、心の底から相手を悪者だと思い込み、恐怖に怯えたり、怒りが収まらなかったりします。そして、その感情を家族や恋人に処理してもらおうとします。

 

解離症状が強く出ると、突然倒れたり、ぼーっと一点を見つめ続けたり、身体が固まったり、考えがまとまらなかったりすることがあり、その間の記憶が残らないこともあります。

 第3-2節.

ボーダーラインの彼女との間で生じること


ボーダーラインの彼女は、子どもの頃から深刻な外傷体験を抱えており、その影響で自分自身を信じることができず、自分を嫌いになることが多いです。家族や友達といった信頼できる存在がなく、他者の言葉や行動を細かく気にするようになり、次第に疑念が膨らみ、被害妄想に囚われてしまいます。特に他者との関係において退路が断たれ、脅かされる不安が強まると、情動の嵐に巻き込まれ、記憶が抜け落ちたり、客観的な自己分析ができなくなります。その結果、誰かを責める傾向が強まり、常に傷つけられた被害者としての意識を持つことがあります。我を忘れている時のことは、記憶にほとんど残らず、相手の悲しそうな顔だけが印象に残ることもあります。また、自傷行為は他人の注意を引くためではなく、自分への罰や、生きている感覚を取り戻すため、あるいは耐え難い感情の痛みを和らげるための手段として行っているかもしれません。

 

恋愛の初期には、人間関係を失敗させないようにと相手に合わせようと努めますが、それが次第に負担となり、やがて相手に合わせ続けることが耐え難くなります。そして、相手が身勝手な振る舞いをしたり、期待に応えなかったりすると、不快な感覚や感情で心が満たされ、喧嘩に発展することもあります。無意識のうちに、自分を大切にしてくれるような恋人を求め、周囲を操作しようとすることもあります。情緒不安定な状態で日々を過ごし、現在の苦しみや将来の不安に耐えられないため、短期的な利益に固執し、長期的な展望を持つことが困難です。そのため、普通の家庭で育った人には、ボーダーラインの彼女の心と体の世界を理解することが難しく、結果として安易に傷つけたり、振り回されることになるのです。

 第3-3節.

ボーダーラインの病理を克服するには


ボーダーラインの彼女をパートナーにする場合、長期的な時間と経済的な負担を覚悟する必要があります。彼女が抱える心理的な課題に対処するためには、ボディセラピーや心理療法、カウンセリング、さらにはスピリチュアルな治療などを取り入れることが有効です。これに加えて、ヨガや瞑想、マッサージ、スポーツ、散歩、演劇、ダンス、武術といった身体を使った習い事を取り入れることをお勧めします。

 

ボーダーラインの彼女は、通常の人よりも些細な出来事でストレスや不安、焦りを感じやすく、交感神経が過度に活発化し、その結果、周囲から誤解を招くような行動を取ることがあります。彼女は常に必死に生きており、その限界を超えると、原始的な背側迷走神経が主導権を握り、身体が凍りつき、脳がシャットダウンしてしまうことがあります。この凍りついた身体と心を解きほぐすためには、彼女が愛され、必要とされ、大切にされていると感じられる環境を作ることが大切です。

 

パートナーとして、彼女との関係を定期的に見直し、セラピーを通じて彼女の病理を克服する手助けをすることが求められます。彼女が自身の感情や行動を少しずつ理解し、安定した生活を築けるよう、寄り添いながらサポートしていくことが重要です。

 

治療の際には、まず環境を整え、居心地の良いイメージや体験を通じて、身体の中にスムーズなリズムを作り出すことが重要です。これにより、腹側迷走神経の働きを優位にし、社会交流システムを活性化させることが、回復への最も効率的な道となります。外の世界とのつながりを大切にしながら、身体のメンテナンスに努めることで、クリエイティブで楽しく、生産的な活動に集中することが可能になります。また、読書や音楽を楽しんだり、家族や友人と穏やかな時間を過ごすことで、トラウマの影響を少しずつ和らげ、新しい未来への道を切り開いていくことができます。

 

まず取り組むべきは、カウンセリングやマインドフルネス瞑想、トラウマに対するボディセラピー、イメージ療法、ヨガ、ダンス、トランポリン、バランスボールといった効果が期待できる活動です。これらを通じて、身体の中に凍りついた部分のロックを解除し、頭と体をスッキリさせて、正常な状態へと導きます。身体のエネルギーが正常に循環し始めると、今ここに集中する力が高まり、目的意識や方向性が見えてくるようになります。さらに、マッサージや鍼灸なども取り入れ、身体の居心地良さを体験することが、心身の回復をサポートするでしょう。 

 

ボーダーラインの彼女がやりたいと思っていることに存分に取り組ませ、彼女の好奇心を引き出し、幸せを実現する方向へと導いていくことが大切です。彼女はパートナーに対して、親にしてほしかったことを求めてくることがあり、それが時には負担に感じることもあるでしょう。しかし、できる限り肩の力を抜き、彼女と一緒に楽しみながら多くの時間を過ごすことで、二人の関係をより良いものにしていくことができます。

 

彼女との関係は、緊張を強めるものではなく、彼女のことを理解し、心に余裕を持ちながら、穏やかに向き合うことが求められます。彼女が思い悩んでいることがあれば、しっかりと話を聞いてあげることで、様々な問題を一緒に解決していきましょう。彼女が身体と仲良くなり、身体の反応を自己調整できるようになるにつれて、認知行動療法や分析的カウンセリングを受けることで、知覚や認知の歪みを修正し、より生きやすくなる道が開けるでしょう。

 

参考文献

小此木啓吾、深津千賀子、大野裕「精神医学ハンドブック」創元社 2004年

 

トラウマケアこころのえ相談室

更新:2020-05-29

論考 井上陽平

  

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