第1節.
スキゾイドパーソナリティ(シゾイドパーソナリティ)障害を持つ人々は、対人恐怖症や発達障害、回避性パーソナリティ障害といくつかの共通点を持ちながらも、外の世界や対人関係に対する興味や関心が極めて薄いという点で大きく異なります。スキゾイドの特徴は、社会的に孤立し、対人接触を避ける傾向が強く、感情の表出が乏しいため、他者からは何事にも無関心であるかのように見えることが多いです。スキゾイドは、シゾイドとも呼ばれることがあります。
スキゾイドパーソナリティ障害の症状は多岐にわたります。恐怖症や社会不安神経症といった不安関連の症状に加えて、解離性症状や離人症、現実感喪失症といった解離関連の症状が見られることがしばしばあります。また、原因不明の身体症状やパニック発作が発生することもあり、これらが彼らの日常生活に深刻な影響を与えることがあります。
スキゾイドパーソナリティ障害を持つ人々は、対人関係を避け、社会的な孤立を好む傾向があります。他者との接触を避けるため、引きこもりがちになり、外部との関わりを極力避ける生活を送ることが一般的です。このような行動は、彼らの内面的な世界を守るための防衛機制であり、外部からの刺激やストレスを避けるための手段となっています。
対人コミュニケーションにおいて、視線や表情、姿勢、発声、覚醒状態、呼吸、情動などの情報処理の仕方は、その人の性格傾向を理解する上で重要な要素となります。これらの要素は、個人の内面を反映し、彼らがどのように世界と関わり、反応しているかを示すものです。特に、スキゾイドパーソナリティ障害を持つ人々においては、これらの側面が顕著に現れることがあります。
スキゾイドの表情は、しばしば物静かで感情の起伏が乏しいと言われています。喜びや楽しさといったポジティブな感情を感じ取ることが難しく、全体的に情緒的な冷たさやよそよそしさが感じられます。彼らの表情は平板で無関心な印象を与え、他者との関わりにおいて感情的な距離を保つ傾向があります。
また、スキゾイドの身体は、強い緊張状態にあることが多く、その結果として動きがぎこちなく、まるでロボットのように見えることがあります。このぎこちなさは、過去に体と心が繰り返し危険に晒され、脅かされてきた痕跡であると考えられます。彼らは、内に秘めたドロドロとした感情に蓋をし、自らを守ろうとする一方で、自身の攻撃性が他者を傷つけないように無意識に制御しているようにも見えます。
さらに、スキゾイドの人々は、手足などの身体感覚が麻痺していることが多く、不器用で周囲と同じことを行うのが難しいと感じることが多々あります。彼らは過去の失敗体験にとらわれ、それらの経験が彼らの行動や反応に大きな影響を及ぼしています。この影響から逃れるために、彼らは感情を極力抑え、あまり何も感じないようにして生活していることが少なくありません。
スキゾイドパーソナリティ障害を持つ人々の対人コミュニケーションにおける特徴は、彼らの内面的な緊張や感情の抑制を反映しています。彼らの表情や身体の動きには、過去のトラウマや感情の抑制が色濃く現れ、これが他者との関わりにおいて独特の困難を生じさせています。これらの特徴を理解することで、彼らが抱える内面的な葛藤や対人関係の難しさをより深く理解し、適切なサポートを提供することが可能になります。
スキゾイドパーソナリティ障害の原因としては、発達のアンバランスさ、生まれ持った資質の弱さ、虐待やネグレクト、医療トラウマ、発達早期のトラウマ、学校社会でのトラウマ、母子関係のこじれ、さらには生活全般の困難など、さまざまな要因が複雑に絡み合っていると考えられています。これらの要因が個々の発達に影響を与え、スキゾイドの心性が形成される可能性があります。
スキゾイドの心性は、一般的な健常者と障害を持つ方の間に明確な境界線が引かれるものではなく、むしろグラデーションでつながっています。つまり、健常者であっても、スキゾイド的な心性を持っている場合があり、これが個人の対人関係や社会生活に影響を与えることがあります。スキゾイドの特徴は、アスペルガー症候群の方とも似通った部分があり、両者はしばしば重なり合う点が見られます。
発達障害は、脳の中枢神経系におけるアンバランスさから生じるとされ、脳の機能障害として理解されています。スキゾイドにおいても、脳の中枢神経系と体の自律神経系が通常とは異なる働きをしており、特に原始的な神経の働きが優位であることが指摘されています。このため、社会的な交流に必要な神経が十分に発達せず、対人関係において孤立する傾向が強まります。
スキゾイドの特徴の一つは、発達の初期段階から心身に解離や分裂が見られることです。これにより、彼らは自分の感情や身体感覚をうまく統合できず、外部の世界と内面的な世界の間に深い断絶を感じることがあります。このような解離や分裂は、彼らが社会的な状況に適応することをさらに困難にし、孤立感や疎外感を強める要因となります。
一般的に、スキゾイドパーソナリティ障害を持つ人々は、愛する者と共にいることが非常に難しく、愛する者と関係を持ちたいという初期の切望が、幼少期にトラウマ的な経験によって阻まれています。これは、子ども時代における重要な希望が失われてしまった結果であり、彼らの内面には深い傷が残っています。本来であれば、子どもは母親を求める自然な愛情を持つものですが、スキゾイドの人々はその愛情がうまく育たず、むしろ対象となる愛そのものに対して憎しみや抵抗を感じる部分が、日常生活の大部分を支配しています。そのため、彼らは社会に対して無関心であるか、あるいは強い批判的な態度をとることが多いです。
スキゾイドの人々は、親しい者と関わることに強い負担を感じます。それは、相手を自分の中に飲み込んでしまい、相手を失う恐怖や、逆に相手に飲み込まれてしまって自分自身を失ってしまう不安が常にあるからです。このような愛と恐怖の葛藤が、彼らが対人関係を築くことを非常に難しくさせています。
スキゾイドの特徴として、視線をあまり合わせない、身なりを気にしないといった行動が見られ、これらは発達障害の症状と類似しているため、識別が難しいことがあります。しかし、スキゾイドの人々は、他者の心を理解できないというよりも、集団の中で様々なことに傷つき、他者からの悪意を避けるために、できるだけ目立たず、社会的な関わりを避けて引きこもっているのです。
彼らは社会経済の慌ただしさや外部の刺激から距離を置き、次第に自分の内なる世界が唯一の安住の地となっていきます。この内なる世界は、彼らにとって安心できる場所であり、そこに他者が入ってくることを許さないためのバリアを張ります。こうして、彼らは外部の世界との接触を最小限にし、自分の心の中でのみ生きるようになります。
スキゾイドパーソナリティ障害の人々は、幼少期のトラウマによって愛情に対する希望を失い、その結果、他者との関わりを避けるようになります。親しい者との関係においても、愛と恐怖の葛藤が彼らを苦しめ、社会的な引きこもりを選ぶことが多いです。彼らは、自分の内なる世界に逃避し、そこにバリアを張って外部との接触を遮断します。このような状態を理解し、彼らが安心できる環境を提供することが、対人関係の改善に向けた一歩となるでしょう。
第2節.
スキゾイドの方は、幼少期にさまざまな外傷体験を負い、その痛みが深く身体に刻み込まれています。この痛みは、その人が生き延びるための防衛反応として身体の中に蓄積され、まるで一種の生命力として体内に残り続けます。このため、外傷を受けた子どもたちは、身体にさまざまな症状を抱えることが多くなります。たとえば、喉の弱さや喘息、腹痛、頭痛、吐き気、アトピー、アレルギー体質、鼻炎、手足の痺れや感覚の麻痺などが挙げられます。
これらの症状は、単なる身体的な不調にとどまらず、深く心の傷と結びついており、その人が抱える内面的な苦しみの現れでもあります。心と身体が密接に関連しているため、幼少期の外傷体験が生涯にわたって身体に影響を与え続けるのです。
人から悪意を向けられたり、予期せぬ事態が起こると、身体がビクッと反応し、喉が詰まったように苦しくなり、息が止まるような感覚に襲われます。これに伴い、身体には痛みが生じ、その痛みが次第に強まっていくと、やがてその痛みが自分自身を支配するようになります。痛みが成長すると、それが本来の自分に取って代わろうとし、痛みそのものが自分の一部として感じられるようになります。
もし心と身体が痛みに取って代わられると、身体は過剰に覚醒した状態に切り替わり、他者に痛みを与えたり、さらに痛みを求めるようになることがあります。しかし、スキゾイドの方は、自分が他者を破壊してしまうことへの恐怖や、他者から傷つけられることへの強い恐れを抱いています。そのため、彼らは自分を過度に思考の世界に閉じ込め、身体を凍りつかせるか、まるで死んだような無感覚な状態で過ごすことがあるのです。
このような状態は、心と身体のバランスを失わせ、日常生活において極端なストレスや不安を引き起こします。スキゾイドの方が感じる痛みと恐怖は、彼らが生きる上で避けられない現実であり、その影響は彼らの行動や生き方に深く根付いています。
スキゾイドの方は、ふとした瞬間に人から悪意を向けられることへの恐怖を常に抱えており、その結果、身体が緊張状態にあります。彼らは、相手の意に沿わないと恐ろしいことが起こるのではないかと怯えており、その恐怖が心身に強い影響を与えています。過去の嫌な出来事が蘇ると、身体は瞬時に凍りつき、感情を抑え込んでしまうため、他者と情緒的な関係を築くことが非常に難しくなります。
彼らは相手の意図を予測し、それに従って行動しようとしますが、予測が外れたり、自分の思い通りにいかないことが起こるのではないかという恐怖に常に苛まれています。予想外の出来事が起こると、その恐怖は身体中に痛みとして現れることがあり、さらなる苦しみを引き起こします。彼らは常にリスクを考えながら生きており、周囲に合わせなければ生きていけないという感覚に囚われています。しかし、複雑な社会の中でどうやって生きていけばいいのか、その答えが見つからず、深い不安に包まれているのです。
スキゾイドの方々は、非常に敏感で打たれ弱い傾向があります。そのため、周囲からの刺激に振り回されやすく、精神的に消耗してしまうことがよくあります。社会や他者と関わること自体がストレスの源であり、常に自分を取り繕い、周囲に気を使いすぎることで疲労感が蓄積します。大人になると、過去の自分が上手くいかなかったことに対する怒りや自己嫌悪感が強まり、社会に対してネガティブな感情を抱くようになります。また、自分のことしか考えない人々がいる社会との関わりを避けたくなることもあります。
スキゾイドの方は非常に敏感で、打たれ弱く、さまざまな刺激に振り回されやすい傾向があります。些細なことで落ち込み、頭の中でクヨクヨと悩み続けることが多いのです。人や社会と関わること自体が大きなストレスとなっており、周りに気を使いすぎるあまり、自分を無理に取り繕うことで疲れ果ててしまいます。大人になった今でも、過去のうまくいかなかった自分を振り返り、その自分に対して憎しみを抱くことがあります。また、社会に対しても強い苦手意識を持ち、自己中心的な人間ばかりがいるこの社会と関わりたくないと感じています。
スキゾイドの方は、家族を含めて、親密な関係が煩わしく感じられ、世間体を気にすることもなく、一人でいることを望む傾向があります。身体はまるで死んだように無気力で、モチベーションが湧かず、生きる意味を見いだせないまま日々を過ごしています。しかし、人生に妥協することもできず、頭の中では生きる意味や死について考え続け、しばしば批判的で悲観的な結論に辿り着いてしまうのです。
第3節.
スキゾイド・シゾイドパーソナリティは、アメリカの精神分析学者ヘレン・ドイチェが記載した「かのような性格」(as if personality)として知られる特徴的な人格パターンの一つです。表面的には、一見して正常で適応的な行動をとるように見えることが多いこの人格タイプは、周囲の人々からも「普通に見える」あるいは「問題のない人」として認識されがちです。しかし、その表面的な適応性の背後には、深い情緒的な断絶や孤立感が潜んでいることが少なくありません。
スキゾイド・シゾイドパーソナリティの最大の特徴は、その表面的な順応性にあります。このタイプの人々は、他者との関わりにおいて、周囲に合わせて行動し、適応的に振る舞うことができるため、外見上は何の問題もなく社会生活を営んでいるように見えます。しかし、実際には、これらの行動は深い内面的な葛藤や不安を隠すためのものであり、真の意味で他者と深い情緒的関係を築くことはできていません。彼らは他者との関係において、自らの感情や欲求を抑え込み、表面的には順応しているかのように見せる一方で、内心では強い孤独感や疎外感を感じています。
スキゾイド・シゾイドパーソナリティの人々は、他者と深い情緒的な結びつきを発展させることが困難です。彼らは、自分自身を守るために、感情を抑制し、他者との間に距離を置く傾向があります。その結果、表面的には他者と関わりを持っているように見えても、実際には心の奥底で情緒的な孤立を感じていることが多いのです。この情緒的な断絶は、長期的には彼らの心理的健康に深刻な影響を及ぼし、人間関係の満足感を得ることが難しくなる原因となります。
スキゾイド・シゾイド論、いわゆる分裂病質論の基本的な枠組みは、イギリスの精神分析学者ウィリアム・フェアバーンによって確立され、その後、英国対象関係論を代表するハリー・ガントリップによってさらに発展させられました。この理論は、人格の中核にある動的な特徴を探るものであり、特に対象に対する憎しみや怒りが愛する対象を破壊してしまうのではないかという非現実的で妄想的な不安や罪悪感が、抑うつを引き起こすことに焦点を当てています。
この抑うつに対する防衛として、スキゾイド・シゾイド人格は、分裂や理想化、投影、同一視といった防衛機制を活発に働かせる傾向があります。分裂は、受け入れがたい感情や葛藤を別のものとして切り離すことで、心理的な均衡を保とうとするプロセスです。一方、理想化は、対象を過度に美化することで、それが持つネガティブな側面を無視しようとする防衛的な手段です。これらの防衛機制は、個人の人格構造を形成する重要な要素であり、内的な不安や葛藤から自我を守るために機能しています。
ガントリップは、フェアバーンの理論に加えて、「愛が対象を破壊する恐怖」だけでなく、「自己喪失の恐怖」にも注目しました。この恐怖は、自己が対象を過度に求めて貪欲に破壊してしまうことへの恐怖と、逆に対象に飲み込まれ、自己を失ってしまうことへの恐怖が同時に存在するという複雑な心理状態を指します。これらの恐怖は、並行して存在し、スキゾイド・シゾイド人格の内的な緊張と不安の源となっています。
スキゾイド・シゾイド(分裂病質)人格を持つ人々は、他者との関わりを非常に危険なものとみなし、そのため関係性から引きこもろうとします。彼らにとって、対象との深い結びつきは不安や恐怖を引き起こすものであり、これを避けるために内的な退避が行われます。しかし、内面で引きこもりつつも、表面的には他者や状況に応じて態度や心のあり方を順応させ、見せかけの同調を行うことがよくあります。この同調は、他者との葛藤を回避するための一種の防衛機制として機能します。
このようなスキゾイド・シゾイド人格に見られる同調行動は、自己と対象に対する内的分裂を反映しています。外見上は順応しているように見えても、内面では常に離人感や空虚感が漂い、自分が現実の世界から切り離されているような感覚を持ち続けています。この現象は、ウィニコットが提唱した「本当の自己」と「偽りの自己」の概念と関連付けて理解することができます。彼の理論によれば、人格の基本的分裂は発達の非常に早期に生じるものであり、これが著しくなると、やがてパーソナリティ障害へと発展する可能性があります。
偽りの自己を形成することで、スキゾイド・シゾイド人格の人々は表面的には社会的な適応を果たし、他者との関係における葛藤を避けることができます。しかし、この適応はあくまで表面的なものであり、内面の孤独感や空虚感が解消されることはありません。偽りの自己は、内的な脆弱さや恐怖から自分を守るために機能しますが、長期的には真の自己を見失い、さらなる心理的な困難に直面するリスクを抱えています。
ユング派心理学では、このようなシソイド・スキゾイドの自我は、ヌミノースと呼ばれる神聖で圧倒的なエネルギーによって脆弱な自我が支えられていると解釈されます。ヌミノースは、個人にとって非常に魅力的であり、その結果として、内的な防衛的ファンタジーの世界に強く引き込まれます。このファンタジーの世界は、現実の外の世界と接触することをますます困難にし、他者との繋がりが失われる原因となります。ヌミノースの影響下で、現実逃避的な防衛機制が働き、外界と向き合うことを避けるようになるのです。
シソイド・スキゾイドの人格における内的分裂は、彼らが人間関係を築く際の大きな障壁となっています。彼らは他者との関わりにおいて、無意識のうちに生じる不安や恐怖に直面し、それが彼らの行動や思考を制限しています。この内的分裂が、外界と自らを隔てる壁となり、孤独感や疎外感がさらに深まる要因となっているのです。
第4節.
スキゾイドパーソナリティ障害は、DSM-Ⅳ-TRは次の診断基準のうちの少なくとも4つ以上を満たすことで診断される。
参考文献
Deutsch, H. 1965 "Neuroses and Character Types" ,Int.Univ.Press
小此木啓吾 1980 『精神分析論』(現代心理医学大系,第1巻B1b),中山書店.
狩野力八郎 1988 『性格の障害』(異常心理学講座,第5巻),みすず書房.
トラウマケア専門こころのえ相談室
更新:2020-06-17
論考 井上陽平
スキゾイドの方は、発達早期の外傷体験により、人格構造に致命的な欠陥があります。体に痛みがあるので、自我を分裂させて、これ以上、傷つきが大きくならないように偽りの自己が組織化されています。
発達障害の方は、この世に生まれ落ちたときから、ゆっくりのんびりができずに、絶えず緊張に曝され、神経発達や生体機能リズムが通常とは違う形で成長していきます。心と体がアンバランスに成長します。
スキゾイドの特徴を持つ女性は、人間関係を築くのが難しく、他者といてもしんどくなり、無意味なことが嫌いで、他者との表面的な繋がりに意味を見出せませんが、孤独を内に秘めています。
解離性障害の方は、空間と時間を変容させ、現実に遠のいたり、近づいたりとすることができるので、現実の世界と夢の世界、現実の世界と空想の世界、また、その中間の世界を渡り歩くことができます。
一度トラウマ防衛が組織されると、外の世界との関係は全てセルフケア・システムに遮られる。更なるトラウマへの防衛として意図されたものにより、この世界でのそれほどくったくのない自己表現も大きな抵抗に遭う。